皆さんのお知り合いに、剣道の有段者はいるでしょうか。例えば芸能人にも、プロフィールに「剣道〇段」と挙げている方がいます。もし学生時代に剣道をやっていたという方がいたら、その方は剣道の有段者かもしれません。ぜひ、その方に聞いてみてください。

3回目となる今回、剣道の「段位」について。ここでは、日本の剣道を統括し代表する公益財団法人全日本剣道連盟(略称:全剣連)が定める段位制度についてお伝えします。

目次

剣道における段位と昇段

剣道の「段位」とは、剣道家個人の剣道技能や修行期間などを総合的に表した数値です。剣道の段位は初段から八段まであり、数字の小さい方から大きい方へ昇段していきます。段位は剣道家が稽古を継続するうえで大きなモチベーションの一つ。多くの剣道家は、より高い段位への昇段を目指して稽古に励みます。

昇段するためには、「昇段審査」という昇段の認定を受けるための審査を受審しなければなりません。昇段審査には、以下のように受審条件が各段位で定められています。

  • 初段:一級受有者で満13歳以上の者
  • 二段:初段受有後1年以上修行した者
  • 三段:二段受有後2年以上修行した者
  • 四段:三段受有後3年以上修行した者
  • 五段・四段受有後4年以上修行した者
  • 六段:五段受有後5年以上修行した者
  • 七段:六段受有後6年以上修行した者
  • 八段:七段受有後10年以上修行し、かつ、満46歳以上の者

なお、剣道一級を含む「剣道の級位」については、また別の機会にご説明できればと思います。

初段になるための審査を受審できる年齢は満13歳以上です。また、二段以上の各段位を受審するためには、現在受有している段位での修行期間が設定されています。例えば三段になるための昇段審査を受審するには、二段を取得してから2年以上経過していることが条件です。このことから、高段位を目指すには相応の年月を要することが分かるでしょう。

昇段試験の内容と厳しさ

昇段審査では、実際にどのような審査が行われるのか。具体的には、以下の審査内容によって合否を判定されます。

  • 剣道の実技審査
  • 日本剣道形(決められた動作を行う演武のようなもの)の実技審査
  • 学科審査(初段から五段までのみ実施)

一つ目に挙げた「剣道の実技試験」は対戦形式の実技審査です。同じ段位を目指す受審者同士で対戦し、その対戦を複数名の審査員が審査して合否が判定されます。剣道の実技審査は、相手を打ち負かせば合格という訳ではありません。自分の実力を示すことはもちろんですが、受審する段位に見合った気迫や品位ある立ち居振る舞いも示す必要があります。

そして、受審する段位が高くなるのにしたがって審査は厳しくなり、合格率は低くなります。ここで、段位ごとの合格率を見てみましょう。以下に六段から八段までの審査結果を挙げました。これは全剣連のホームページに掲載されているデータから、2019年度の年間数値を抽出しました(不合格者数・不合格率は筆者が算出)。

 

受審者数

合格者数

不合格者数

合格率

不合格率

六段

6,477人

1,436人

5,041人

22.2%

77.8%

七段

5,481人

982人

4,499人

17.9%

82.1%

八段

3,695人

19人

3,676人

0.5%

99.5%

2019年度に行われた六段になるための昇段審査を受審したのは6,477人でした。その中で六段への昇段が叶ったのは1,436人。受審者中22.2%が六段への昇段が叶ったということになります。

視点を変えて、不合格率にご注目ください。六段になるための昇段審査での不合格率は77.8%です。これは受審者100人あたり、77人以上が不合格だったことを表しています。つまり六段になるためには、挑戦者の77%以上が不合格になる関門を突破しなければならないというです。七段審査は挑戦者の82%以上が不合格に、最高段位の八段にいたっては99%以上が不合格になる試験ということになります。

六段、七段、八段への昇段審査について、結果からどう感じるでしょうか。恐らく、非常に厳しい試験だと思われる方は多いはずです。合格率から分かるとおり、一度の受審で合格するのは非常に稀なこと。ほとんどの場合、同じ段位の昇段審査を複数回受審することになります。中には、同じ段位の昇段審査を十数回にわたり受審することもあるほどです。

昇段審査が厳しいことで、剣道家は常に高いモチベーションをキープして稽古に向かいます。例えば「〇年後には〇段の審査を受審する資格が得られる。そのときまでに実力をより高められるよう今から稽古に励もう!」とか、「今回は合格できなかったが、次に受審するときは必ず合格できるよう今日も稽古を頑張ろう!」といった感じです。剣道の段位制度は、剣道家が常に向上心を持って稽古に取り組むための重要なシステムになっています。

目指す段位がモチベーションの土台になる

私自身は昨年、七段への昇段が叶いました。私が次に目指すのは八段への昇段です。先ほどご覧いただいた通り、八段への昇段審査の合格率は1%以下。「日本最難関の試験」とされることもあるほどの狭き門です。もしかしたら、生涯をかけた挑戦になるかもしれません。

もちろん剣道は、昇段することだけを目的にして稽古する訳ではありません。しかし目指す段位があることは、私にとっても稽古を継続する上で大きなモチベーションになっています。挑戦する壁が高ければ高いほど、挑戦し甲斐があるというものではないでしょうか。剣道には競技として相手に勝つこと、あるいは大会で高い順位を獲得すること以外にも、追求する道やさまざまな楽しみ方が備わっているのです。

・参考:公益財団法人全日本剣道連盟

 

By 三森 定行 (みもり さだゆき)

剣道LABO®︎代表・剣道ファシリテーター。自身の剣道経験と映像編集技術を駆使し、社会人剣道家の上達をマンツーマンでサポートしている。東京・神奈川・千葉・埼玉にクライアント多数。全日本剣道連盟 錬士七段。1976年生まれ。