暑い時期には、熱中症や脱水症などのリスクが高まる。また、パフォーマンスも低下し、怪我など思わぬトラブルを起こしかねない。特にランニングのような屋外での運動は、体調管理に十分な注意が必要だ。私もランニングや陸上競技等の指導に当たる中、自身のみならず周囲に対しても情報を共有することで対策を促している。本記事では、具体的な暑さ対策についてご紹介しよう。ランニングを軸とした内容だが、その他スポーツにおいても活かせるものが多いので、ぜひ実践していただきたい。
目次
暑さに慣れる
暑いと、つい涼しい室内で過ごしがちだ。暑さを回避することは、もちろん熱中症等の対策として大切だろう。しかし、それではいざ屋外に出た際に、すぐ暑さに負けてしまう。そこで、日頃から身体を暑さに慣れさせておくことが大切だ。これを「暑熱順化」と呼ぶ。
例えば最初は15~30分程度、短い時間で軽度の運動に取り組む。少しずつ身体が暑さに慣れてくれば、運動できる時間が延びたり、強度の高いトレーニングでも行えたりするようになるはずだ。室内でも運動したり、入浴やサウナなどで汗をかくことも暑熱順化に繋がるだろう。
なお、暑熱順化は長く続かない。せっかく慣れても、しばらく暑い環境に身をおかなくなれば戻ってしまう。そのため、日頃から涼しい室内ばかりで過ごさず、適度に外に出たり運動したりするようにしたい。ただし暑熱順化できていない状態では熱中症等になりやすいため、少しずつ慣れさせることが大切だ。暑熱順化については日本気象協会も推奨しているので、以下も参考にして頂きたい。
・「熱中症について学ぼう:暑熱順化」(一般財団法人日本気象協会)
喉が渇く前から水分補給
通常、多くの方はのどが渇くと、これを潤すために水分補給を行うだろう。しかし暑い時期は、これだとタイミングが遅いかもしれない。できるだけ1日を通じ、喉が渇く前からこまめに水分補給を行おう。これによって、十分な水分量が身体に確保された状態を保つことが期待できる。私の場合、1日1.5Lを目安としてこまめな水分補給を行っている。
また、発汗すると水分だけでなく塩分も失われるため、合わせて摂取することが大切だ。経口補水液などを用いるか、その他の方法で水分とは別に塩分も補給しよう。個人的には、クエン酸やアミノ酸なども含まれる「梅酢」がおすすめ。スポーツドリンクは糖分が多いため、あまり頻繁な摂取は控えた方が良いかもしれない。
暑さ対策に適したウェア選び
吸水性や速乾性に優れたもの、あるいはUVカット機能のあるものなど、暑い時期に適したウェアを選ぼう。どうしても薄着になりがちだが、冷感素材を用いたアームカバー等を用いれば、むしろ直射日光を防ぎながら快適に過ごせるかもしれない。また、同様にキャップで頭部を、タオル等を巻いて首元を直射日光から守るのもおすすめだ。もちろんUVカットの面で考えれば、日焼け止めも有効と言える。
例えば、綿素材のスポーツウェアは速乾性が低いので汗を含み続けてしまう。不快感があるほか、運動後にそのまま涼しい場所に入ると、汗冷えして体調を崩してしまう可能性がある。一方、よくあるポリエステル素材では速乾性に優れるものの、それ自体には吸水性がない。素材によって特徴が異なり、昨今は素材を組み合わせたり加工したりすることで、吸水速乾性に優れたウェアが開発されている。UVカットも同様のため、あらかじめ確認して暑さ対策に適したウェアを選ぼう。
身体をクールダウンさせる
運動後はもちろん、運動中も含めて身体をクールダウンさせるのも効果的。血液が冷えると体温が下がるため、熱中症対策にもなるだろう。特に首や手首、肘や膝の内側などは皮膚が薄いため、血管との距離が近く血液を冷やしやすい。
クールダウンの方法は冷水を掛けたり氷嚢などを当てたり、あるいは扇風機やうちわで風を当てるだけでも行える。ランニング時には凍らせたペットボトルをタオルで包んでおくと、水分補給と身体のクールダウン両方に使えておすすめ。ただし、血流が悪くなる可能性があるので、冷やし過ぎには注意しよう。
周回コースの活用
夏のランニングにおすすめなのが周回コースの活用。なぜなら、周回毎に休憩や水分補給などを挟みやすいからだ。ただし、周回コースと言っても、あまり距離が長いと意味がない。炎天下では数kmでもいつも以上に疲労するし、相当な汗をかく。そのため、~1km程度を目安にすると良いだろう。陸上競技場のように多くの人が利用する場所なら、万が一の際にも助けてもらえるので安心だ。
もちろん、水分等を持って走ることもできるだろう。しかし、何も持たずに走るのとでは快適さが違う。手に持てば重くて腕振りの妨げになるし、腰に巻くとフォームが崩れたり擦れの原因になったりする。日陰など一定箇所に置いておき、タイミングを見て補給する方が練習にも集中できるだろう。
私はよく、近所にある周回700mの森を走っている。森の中は日陰で涼しいし、不整地でのトレーニングは走力アップが期待できるからだ。短い周回を走るのは飽きることもあるが、小鳥や虫の声、あるいは木々が風に吹かれる音を聞いていると集中できる。そのほか、陸上競技場や近所の公園などで、400~1500m程度までの周回コースをいくつか確保。トレーニング内容や気分に応じ手使い分けている。
ロング走は一人で走らずリスクの低いコースを選ぶ
もちろん、暑い時期でも長い距離を走りたいという方は多いはずだ。そんなときは、できれば仲間を誘って一緒に走ろう。体調不良など何か起きた際、お互いに助け合うことができるからだ。コロナ禍では集団走を推奨することはできないが、数名なら距離を保って走れる。
また、コース選びも大切だ。何もない道を走るのではなく、適当なタイミングで休める場所、水分等を購入できるお店などがあるコースを選びたい。もし遠出するのであれば、「もう無理」となったときすぐに帰れるよう、公共交通機関の整ったエリア(電車の沿線沿い 等)を選ぶと良いだろう。
過信せず十分な対策で、充実したランニングライフを
もちろん涼しいマラソンシーズンで記録を出すためには、暑い時期でもしっかり計画的にトレーニングすることが大切だ。しかし、いつもと同じ距離や時間でも、暑い時期のランニングはリスクが高まる。「いつも走っているから」と過信せず、十分な対策を考えて走るようにしたい。
[著者プロフィール]
三河 賢文(みかわ まさふみ) |
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。