黒色のユニフォームにレインボー色の背番号。真っ黒に日焼けした女子サッカー選手たちが、女川スタジアムで声を張り上げる。海外のリーグで活動している日本人選手たちが集結したチーム『PROTAGONISTA(プロタゴニスタ)』だ。普段は日本で観られない選手たちのプレーを観戦しに、345人の観客が集まった。

参加選手の一人であり、プロタゴニスタのリーダーでもある千葉望愛さん。日本でプレーしていた頃は「ただ練習をして、ただ試合をしていた」と話す。スペインリーグで活動していく中で、社会や業界について知る機会も増えた。サッカー選手である自分が発信していくことの意義に気が付き、今度は日本女子サッカー界の発展のために行動を起こし始めた千葉さん。日本の選手たちへ、プロタゴニスタを通して伝えていきたいことを伺った。

目次

進める道は、日本だけではない

プロタゴニスタとは、スペイン語で『主人公・主役』を意味する。今シーズンから、スペイン2部リーグのSecció Esportiva AEMに所属する千葉望愛選手を中心に発足されたチームで、現在は活動2年目。2022年6月には、東日本大震災で津波の被害にあった女川町で『NS TOOL日進工具プレゼンツ欧州組集結チャリティーマッチ』として試合を開催。試合前には、対戦相手の早稲田大学ア式蹴球部女子部と震災の講話を聞いた。

プロタゴニスタというチームを通して、千葉さんがやりたいことは多い。海外で活動する選手の知名度向上、実際に日本で試合を見てもらう機会創出、代表を目指す選手のアピールの場。その中でより強く主張するのは、日本にいる選手たちの選択肢を増加させることだ。海外でサッカーをするにあたって、彼女たちが乗り越えてきたものを伝えていきたいという。

「海外でプレーしている私たちが、日本でサッカーをする選手たちにとって、一つの選択肢になれたらと思っています。何かを決断する時って色んな人に意見を聞いて、背中を押されたり反対意見をいわれたりしますよね。私がスペインに行く時もそうでした。それはすごく心強いことだけれど、最終決断は自分がしなくてはならない。そこから楽しくなるも辛くなるも、自分次第だと思います。それを伝えていけるのは、海外という道を自分で選び、そこで試行錯誤を繰り返す、私たちプロタゴニスタの選手だと思うんです。」

プロタゴニスタのコンセプトは『人生の主役はわたし』。周りの目を気にせず、自分のことを好きでいるスペイン人のことを、かっこいいと千葉さんは話す。

「スペインの選手たちは、自分を大切にしている人が多い。日本は人のことを心配するけど、自分のことは少しおろそかにする印象です。人からどう見られているかも気にしますよね。でも、スペイン人は自分が一番で、家族が一番です。家族に何かあったら練習を休むし、自分の気分が悪くても休む。サッカーが、人生のほんの一部ということがわかったうえで生活していますね。」

海外に移籍した選手たちが見て、体験してきた世界、生き方そのものが、日本にいる選手たちにとって新しい道となり得る。それを広めていくのが、プロタゴニスタの役目だ。

一人ではないから活動できる

千葉さんが初めて海外に行ったのは中学生のとき。その頃から、漠然と将来は海外に行きたいと思うようになったという。早稲田大学を卒業後は、ユースのときにプレーしていた浦和レッズレディース(現在の三菱重工浦和レッズレディース)に加入。転機が訪れたのは2年目のシーズン終わりだった。試合に絡めていなかったタイミングで、スペインでサッカー関係の仕事をしている大学サッカー部の先輩に、海外移籍の話を持ち掛けられたのだ。

「サッカーをやめようかとも考えていたんですが、サッカーが辛いいという気持ちで終わりたくないと思ったんです。楽しかったという気持ちで終わりたいなと思って、海外移籍に向けて動き始めました。」

年始にトライアウトへ向かうと、1チームからオファーをもらい移籍先が決定。話をもらってから、約4か月で念願の海外へ飛び立った。そして、スペインリーグに移籍してから7シーズン目に突入した千葉さん。彼女がスペインにきた頃と比べると、欧州リーグで活動する日本人選手の数は大幅に増えた。ヨーロッパにいる日本人女子選手たちが日本に帰国したタイミングで、みんなでチームを作って試合したら面白そう。昨年までReal Racing club femeninoでプレーしていた十川ゆき選手とそう話したことがきっかけで、プロタゴニスタの活動は始まった。

何もないところから活動はスタート。スポンサーに協力してもらいながらユニフォームを作成し、グッズも販売。選手を集め、対戦相手を探して場所を確保する。ゼロからイチを作り上げるには、仲間の協力が必須だった。

「私は、やりたいことはあるけれど、どう動いたらいいかわからない。そこで、何をするかをまとめてくれる人がいます。それを実現するための具体的な案を出してくれる人もいるし、経験値の高い人にアドバイスももらっています。」

プロタゴニスタは自分一人ではできないと、仲間の存在に感謝する。想いを形にするために、多くの人の助けを借りて活動するプロタゴニスタ。今年の活動が終わった直後から、来年のシーズンオフに向けて動き始めている。

自分の意見を持ち、主張する

海外でプレーするプロタゴニスタの選手たちは、普段は違うチームで活動している。そのため、試合で初めて顔を合わせる人も多い。そんな中でも、お互い気さくにコミュニケーションをとりながらプレーを修正していく。6月に行われた試合の前日ミーティングでは「自分の得意なプレーを言っていこう」と声が上がると、「私は少ないタッチ数でプレーしたいので、サポートに入ってもらえると嬉しいです」「自分は裏よりも足元でボールが欲しいです」など、個々がプレーしやすいように主張する姿も見受けられた。千葉さん自身、スペインを訪れてから自分の意見を伝えるようになったと話す。

「日本にいるときは、良い条件でサッカーができることが当たり前になっていました。また、何か思うことがあっても、それを変えようとは思わなかったんです。でも、海外では環境がそんなに良くありません。その分、選手たちがそれを良くしようとしています。例えばチームの状況が良くないと思ったら、選手みんなで話し合ってクラブに伝えていく。また、以前は所属するリーグ自体を良くするために、各チームのキャプテンが集まってリーグに伝える機会もありました。そういう姿を見ていることで、自分自身も主張をはっきりするようになったんです。」

今回対戦した早稲田大学の4年生で、海外でプレーしたいと考えている選手も刺激になったと話す。

「一人一人の主張がすごく強いと思いました。自分はプレーで意見が食い違ったときに譲ってしまう所があるから、自分はこうしたいと自らの考えや意見を持って、話し合う必要があると感じました。」

実際に海外でプレーする選手たちを目の当たりにしたことで、自分を振り返るきっかけになったようだ。

海外と日本の架け橋へ

千葉さんに、これからの日本の女子サッカーについて伺うと、外国人選手が増えてほしいという言葉が返ってきた。

「スペインのいいところは、チームに色んな国の人がいることです。それぞれの国によって、選手は違う特徴を持っています。練習から国際試合のように、色んな国の人と闘えることはすごく面白いです。だから、日本国内でもそういうことができたらいいなと思っています。」

2021年に開幕した日本女子サッカーのプロリーグ『WEリーグ』のことは、海外の選手にまだまだ知られていないそうだ。だからこそ、プロタゴニスタが海外と日本の架け橋になれたらと千葉さんは話す。これからプロタゴニスタを、もっと色んな人に知ってもらいたいと意気込みを見せてくれた。

「プロタゴニスタを通して海外の選手を呼び、試合をしていくことで、WEリーグのことも知ってほしいです。6月に試合をしたときも、初めてサッカーを全部みたという女の子や、サッカーをしたいと言い出した子がいたんです。自分たちの活動を通して、サッカーをやってみたいという子が増えていくのは嬉しいですね。今後、自分たちが子どもたちと触れ合ったり、子どもたちにも実際に海外選手との試合を経験したりしてほしいという気持ちがあります。日本に興味のある外国人選手を読んで、日本人選手とのミックスでも試合をしていきたいです。」

いずれはシーズンが違う国の選手も呼んで試合をするために、各国のシーズンオフに合わせて1年に何回か開催するくらい大きくしていきたいという。プロタゴニスタは、まだ始まったばかり。これからの可能性は無限大だ。

海外に行くだけでなく、海外から呼ぶという選択肢も示していくプロタゴニスタ。自らプレーしながら国内外に働きかける千葉さんは、これからも『人生の主役はわたし』を体現していく。異国の地でもがく選手たちが集まるこのチームは、今後の日本の女子サッカーの発展に欠かせない存在になるのだろう。

千葉 望愛(ちば みのり)

1991年9月6日生まれ。早稲田大学ア式蹴球部女子部を卒業後、浦和レッズレディースに入団。その後スペインに移籍し、現在は2部リーグのSecció Esportiva AEMで活動している。2021年に海外に移籍している女子サッカー選手を集めたチーム、PROTAGONISTAを結成。2022年6月にも宮城県女川町で試合を行っている。

By 伊藤 千梅 (いとう ちうめ)

元女子サッカー選手・なでしこリーガー。現役中はnoteでの活動を中心に発信。引退後はFCふじざくら山梨のマッチレポートの執筆を行う。現在はフリーライターとして活動中。

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