長距離ランナーは疲労骨折を起こしやすく、特に女性ランナーに多いことは広く知られている。その原因については、無理な減量や過酷な練習量がよく取り沙汰されるだろう。それらに加えて、子どもの頃からランニングに専念していたランナーは、他のスポーツも経験していたランナーより骨が弱くなっている可能性を示唆する新研究(*1)を米国インディアナ大学の研究者たちが発表した。

*1. Enhanced Bone Size, Microarchitecture, and Strength in Female Runners with a History of Playing Multidirectional Sports.

目次

大学競技レベルの女性長距離ランナーが過去に行っていたスポーツの種類に着目

この研究は、アメリカの大学クロスカントリー走競技で1部及び2部リーグに属する、女性ランナーたちを対象とした。アメリカでは長距離走ランナーのほとんどが、学生時代にクロスカントリー走を経験する。つまり、この研究対象になったのは、かなり本格的に競技レベルが高いランナーたちだ。日本のケースに例えるなら、トップレベルの駅伝ランナーのような選手たちだと言えるだろう。日米を問わず、女性長距離ランナーたちは疲労骨折などの骨にまつわる故障を起こしやすい。この研究のユニークな点は、女性ランナーたちが現在のどのような骨の状態にあるかを調べただけではなく、彼女たちが過去に行っていたスポーツ歴との関連を調べたことである。

女性ランナーたちは2つのグループに分けられた。ひとつは子どもの頃から主にランニング、水泳、あるいは自転車といった耐久系スポーツを中心に行っていたグループA。もうひとつが、子どもの頃はバスケットボールやサッカーなどの球技スポーツも行っていたグループBである。この区分は、一方向のみに動くスポーツ(グループA)と多方向に動くスポーツ(グループB)が、骨の健康にどのような影響を与えるかを探るためだ。

研究の結果として、グループAのランナーたちは、骨の構造と強度がグループBより顕著に劣ることが明らかになった。子どもの頃にバスケットボールのような多方向へ動くスポーツを経験したランナーは、長距離走のような一方向へ動くスポーツに専門化したランナーより骨が健康になり、大人になってからの故障リスクが低くなると論文著者たちは結論で述べている。つまり、長距離ランナーは疲労骨折を起こしやすいが、そもそも骨が弱いかもしれないということだ。

ひとつのスポーツだけに専門化することへの警鐘

研究を主導したスチュアート・ウォーデン氏は、インディアナ大学のプレスリリース(*2)で以下のように述べている。

*2. Sports like soccer, basketball better for young athletes’ bone health than running alone.

「私たちのデータは、多方向へ動くスポーツを子どもの頃に経験することがランニングなどの1方向に動くスポーツに専門化することに比べて、より大きく強い骨を形成し、骨の故障リスクを低めることを示しています」

「子どもたちが将来的に高いレベルの競技者になるためには、早い段階からそのスポーツに専念するべきだという誤解があります。しかし、最近のデータは若い頃から専門化したアスリートは蓄積疲労による故障リスクが高く、将来的に高いレベルで競技を続けられる可能性がかえって低いことを示しています」

アメリカに比べると、日本において長距離走の人気ははるかに高い。大学や実業団のマラソンや駅伝レースがテレビの人気コンテンツになるなど、アメリカでは考えられないことだ。将来は長距離ランナーになりたいと憧れる子ども、も日本には多いだろう。

それ自体は素晴らしいことだが、気がかりなのは、子どもたちが複数のスポーツを経験する環境が日本では手に入りにくいことだ。せっかく、学校にはさまざまな種類のスポーツ部活動が存在するのに、そのうちのひとつしか選択できないことが一般的である。箱根駅伝を走る大学エリートランナーのうち、いったい何人が、中学や高校時代に陸上競技以外のサッカーやバスケットボールなどを経験していただろうか。

優れた長距離ランナーになるためには、たくさん走らなければならないのは自明の理だ。しかしながら、スポーツの専門化を急ぐべきではない。未来のランナーたちが成長してから骨の故障に悩むことのないように、他のスポーツも大いに楽しむことを大人たちは後押しするべきではないだろうか。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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