皆さんは「1万時間の法則」をご存知でしょうか? マルコム・グラッドウェルが各分野の一流と呼ばれる人を研究した結果から、スポーツでも音楽でもジャンルに関わらずプロフェッショナルレベルになるには、1万時間の積み重ねが必要だと言われる法則のことです。これには賛否あるようですが、私はこの法則に一理あると思っています。

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毎日3時間やると10年で1万時間

1年365日、1日3時間練習すると約10年で1万時間。週に4回、3時間の練習を続けると約16年で1万時間。仮に2歳でパデルを始めたとすれば前者は16歳、後者は22歳にプロフェッショナルレベルになります。例外はもちろんありますが、ジュニアテニスなどを見ると、そこまで見当はずれな主張でもないように感じます。ちなみに、週末の週2回3時間ずつ練習した場合、1万時間に到達するまでには約33年かかります。

頭で考えているほど、思ったように上達しないと落ち込む人が少なくないかもしれません。ですが、私が大器晩成という言葉が好きなのは、こういった残酷な一面も現実にはあるからです。

元テニスプレーヤーはそれだけ積み重ねてきている

もうお察しだとは思いますが、パデル歴数ヶ月もしくは1~2年で上手になる人というのは、やはりこの積み重ねをしてきています。ただ、全部そのまま積み上がるとは感じておらず、テニスで積み上げてきた年数×0.7ほどの印象です。そのため、パデルが上手になりたいと思ったら、まずはこの1万時間に到達できるよう頑張ることでしょう。

パデルのようなスポーツの場合、基本的には「コート上での練習時間」を計算します。しかし、コート以外での練習、例えば「プロの試合を見る」「パデルの本を読む」「コーチの話を聞く」なども練習時間に入れていいと思います。でも、これは実際に費やした時間×0.3ぐらいに考えてください。練習は週に1回1時間だけど、プロの試合は全部チェックして見てるという人が仮に1万時間費やしたとしても、少なくともコート上ではプロフェッショナルレベルに達していないであろうことは想像できます(もしかしたら、今後そういった努力の仕方で上手な人が現れるかもしれませんが)。

同じ練習時間なのに違いが出るのはなぜか

「同じくらいの練習量なのに」もしくは「1万時間到達したのに」というように思って、ハンカチを噛み締めている人がいるかもしれません。では、なぜ差が出てくるのでしょうか。

それは、「深さ」が違うからです。パデルにもテニスにも、対角線で相手と打ち合うクロスラリーという練習があり、老若男女レベル問わず多くの人が練習するメニューの一つでしょう。新しい練習メニューやドリルを欲しがる人は、いつの時代も一定数います。もちろん、実際に画期的なドリルが発明され、効果抜群というものもあると思います。しかし、個人的に現時点では、当たり外れが激しすぎる感じます。もしかしたら、その画期的な練習メニューは来年の今頃、もう誰もやっていない可能性があるでしょう。1万時間に到達するための大事な1時間を費やすのであれば、パデル(やテニス)の歴史の風雪に耐えてきた「昔から使われ現在も使われている練習メニュー」に私は費やします。パデルで言えばベラ(元世界ランキング1位)もレブロン(現世界ランキング1位)もやっているメニュー、テニスで言えばマッケンローやサンプラスなどの過去のチャンピオンがやっていて、現チャンピオンのジョコビッチやナダルもやっているメニューを外すわけにはいきません。もちろん、あくまでもそこに近づくことを目標にしている人は…です。

 「クロスラリーをするためにクロスラリーの練習をしている人」もいれば、「試合に勝つためのクロスラリーをしている人」もいるということ。試合を有利に運ぶためには、どんなことを意識してクロスラリーをしたらいいのか。そういうことを考えている人と、そうでない人がいるということです。そして、その二人は側から見ている分だけだと、「同じクロスラリーを練習している人」に見えます。

深さも同じだったら?

こうなると、最終的には「これまで練習に費やしてきた時間の質」になってきます。最初から質の高い練習を続けてきた人、練習の途中で意識を高く持つことの必要性を感じた人とでは、やはり前者に軍配が上がります。だからといって、腐る必要はありません。前者が油断して考えて練習しなくなる可能性もありますし、自分はとにかく引き続き質の高い練習を続けてください。

最初から、あるいは最初からとは言わず今からでも、質の高い練習を求めるのであれば、やはりコーチに習うのがベターだと思います。その意味で、私がMaxiとNicoという良いコーチに最初から巡り会えたのは本当に幸運でした。Maxiは現在世界ランキング13位のVeroを教えていて、NicoはA1PADEL(旧APT PADEL TOUR)で現在ランキング1位ペアのFranco・Maxiペアを教えていて、ジュニアアルゼンチン代表のコーチも努めています。

勘違いされやすい1万時間の法則

今回取り上げた「1万時間の法則」ですが、「1万時間練習すればプロフェッショナルレベルになれる」わけではありません。この点は、勘違いしないでください。正しくは、「練習なしにプロフェッショナルレベルにはなれない」ということです。

プリンストン大学の研究で、「練習が技量に与える影響の大きさはスキルの分野によって異なり、スキル習得のために必要な時間は決まっていない」ということが分かったそうです。加えて興味深いのは、「練習量の多少によってパフォーマンスの差がつくジャンル」があることも分かったそうで、テレビゲーム26%、スポーツ21%、教育4%だったということ。これを踏まえると、やはりパデルは一定量を練習して損はなさそうです。

また、将来家庭で親から「そんな色んなゲームに手を出していないで、1つだけやりなさい!」と言われる子どもが激増する日が来るかもしれません。私の好きなマンガで「はじめの一歩」というものがあるのですが、その中の鴨川会長というキャラクターが主人公に伝えた言葉で、この記事を締めたいと思います。

「努力した者が全て報われるとは限らん。しかし、成功した者は皆すべからく努力しておる」

参考:はじめの一歩

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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