2023年4月29日、メキシコ合衆国の首都メキシコシティーで、史上初のメジャーリーグ公式試合が行われた。それだけでも歴史的な出来事だったが、試合そのものもメジャーリーグの歴史を塗り替えかねない展開となった。サンディエゴ・パドレスとサンフランシスコ・ジャイアンツの両チーム、合わせて11本のホームランが飛び出したのだ。その中には4つの2者連続ホームランも含まれていた。

1試合11本のホームランはメジャーリーグ史上3番目の記録。試合が行われた球場は標高2,200メートルの高地にあり、空気が薄かったことが打球の距離を伸ばしたと見られている。メジャーリーグでもっともホームランが出やすいとされるコロラド州デンバーのクアーズ・フィールドより、さらに約600メートル高いのだから無理もない話だ。

空気の薄さが打球の飛距離に影響することは既知の事実だが、それ以外に気温が高かった(当日、メキシコシティーの最高気温は28℃)ことも原因の一つかもしれないことを示唆する新説をご紹介しよう。

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2100年には気温上昇が原因でホームラン数が10%以上増加するとの予測

この試合に限らず、近年のメジャーリーグでは全体のホームラン数が増加し続けている。1990年には3,183本だったシーズン合計本数が、2000年には5,693本に増え、2019年には過去最高の6,776本に達した。30年で2倍以上に増えたのだ。その原因として、アッパースイング気味でボールに角度をつける打法が主流になっていること(フライボール革命)、筋力トレーニングの進化によるパワーアップ、果てはリーグがボールを飛びやすいよう秘かに細工している疑惑など、さまざまな説が取り沙汰されている。

そのどれかが正しいのかもしれないし、あるいはすべてが正しいのかもしれない。しかし、それとは別にアメリカ気象学会雑誌で、新しくかつユニークな説が発表された。ダートマス大学の研究(*1)によると、2010 年以降の 500 本以上のホームラン増加数は、地球温暖化による気温の上昇と薄い空気によってもたらされたというのだ。

*1. Global warming, home runs, and the future of America’s pastime.

研究者らは、「気温が高い→空気密度が下がる→打球がより遠くへ飛ぶ→ホームラン数が増える」という仮説を立てた。その仮説を証明するために、研究者たちはメジャーリーグで行われた10万試合と22万本のヒットを分析。ホームランの数および試合中に季節外れの暖かい天候が発生したケースを比較した。さらに、気温が高いときに空気密度が低下したことが特定の日のホームラン数にどれだけ影響したかを、気温が低いときの他の試合と比較して推定した。その結果、同じ球場で試合が行われていても、暖かい日は寒い日よりホームラン数が増える現象が確認されたということだ。

そして、地球温暖化により、平均気温はこれからも上昇していくことが予測されている。地球温暖化が現在のペースで進むと、シーズンごとにさらに数百本のホームランが増える可能性があると研究者らは予測している。現在は、まだホームラン数増加のわずか 1% が気候変動に起因すると考えられている。しかし、2100 年までにはその比率が 10% 以上を占める可能性があるとも付け加えている。

ドーム球場なら気候変動の影響は少ないか

再び1試合最多ホームラン数の話題に戻ると、4月29日のメキシコシティーを上回った過去のメジャーリーグ試合は以下の通りだ。

ホームラン数

試合(*がホームチーム)

試合日

13

アリゾナ・ダイヤモンドバックス対フィラデルフィア・フィリーズ(*)

2019年6月10日

12

シカゴ・ホワイトソックス対デトロイト・タイガース(*)

1995年5月28日

12

デトロイト・タイガース対シカゴ・ホワイトソックス(*)

2002年7月2日

これらは、いずれも暑い季節に行われたものである。ホームランの飛距離に目を転じてみると、近年で最長とされるノマー・マザラ(当時テキサス・レンジャーズ)が放った約153.9メートルのホームランは2019年6月11日、第2位のジャンカルロ・スタントン(当時マイアミ・マーリンズ)は2016年8月6日に153.6メートルを記録している。しかも、この2本のホームランは、どちらもまだ日が暮れていない(気温が下がっていない)時間帯に飛び出している。

やはり、気温が高くなるとホームランが増えるという傾向はあるようだ。しかしながら、ドーム型の屋内球場は空調が効くわけなので、外気温の影響は少なくなるはずだ。屋外の球場であっても、試合が行われるのが日中か夜かによって違いは生じるだろう。

雨が多い日本の気候のせいかもしれないが、日本プロ野球の球場は東京ドームを始めとして屋内ドーム形式が多い。一方、メジャーリーグはほとんどが屋外の球場であるうえ、日中に行われる試合も多い。フロリダ州タンパベイのトロピカナ・フィールドが唯一の屋内型で屋根が開閉しないドーム球場で、他に開閉式屋根を持つ球場が5つある。従って、地球温暖化がホームラン数を増やす現象は、日本プロ野球だとメジャーリーグほどには起きないかもしれない。しかし、真夏の日中に甲子園球場で行われる全国高校野球大会のホームラン数は増え続けていくはずだが、果たしてどうなるだろうか。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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