4年に一度のラグビーの祭典『ラグビーワールドカップ2023』も、いよいよ大詰めに入る。開催国のフランスで9月8日から10月8日の期間で行われた予選プールは、たくさんの熱戦が見られスタジアムを盛り上げた。ベスト8が出揃い、10月14日から決勝トーナメントに突入する。予選プール以上に白熱した試合が繰り広げられることは間違いない事から、ぜひ注目したいところだ。そこで、予選プールを振り返りつつ、決勝トーナメントの展望してみたい。
※時間は開催国のフランス時間
目次
予選プールを振り返る
プール・A
開幕戦で開催国のフランスがニュージーランド代表・オールブラックスを相手にFW戦で勝り、試合を有利に進めて27-13で勝利。オールブラックはワールドカップで初めてプール戦で黒星となり、歴史が動いた試合と言えるだろう。フランスは、残りの試合も危なげなく勝利して1位で通過。ニュージーランドは開幕戦の敗戦以降、相手を寄せ付けつけず2位を確保して決勝トーナメントへ進んだ。
プール・B
アイルランドと南アフリカの大一番の試合は、両軍ともディフェンスの強さを見せロースコアとなり、激戦の末アイルランドが13-8で勝利。その後、アイルランドは強さを見せ、プール最終戦ではスコットランドに36-14で圧勝し、全勝で1位通過した。2位は順当に南アフリカが入って、他が付け入る隙がなかった。
プール・C
今大会で苦戦が予想されていたウェールズが初戦でフィジーと対戦し、激戦の末32-26でウェールズが辛うじて逃げ切った。その後、ウェールズはオーストラリア相手に40-6と圧勝するなど、全勝で1位通過。残りの1枠は、フィジーとオーストラリアが2勝2敗で並び、勝ち点でも11ポイント並んだが、直接対決で22-15と勝利したフィジーが2位通過となった。これにより、優勝経験が2回あるオーストラリアは初めて予選プールで姿を消すこととなった。
プール・D
このプールの本命、イングランドとアルゼンチンが初戦で対戦。イングランドは序盤にレッドカードが出て数的不利となるも、正確なゴールキックで着実に得点を重ねて27-10で勝利。その後、イングランドは日本相手に34-12、最終戦ではサモア相手に18-17とタフな試合をしながらも、負けなしで1位通過を決めた。
残りの1枠は、最終戦で日本とアルゼンチンの勝ったほうが決勝トーナメント行きのサバイバル戦だった。前半はアルゼンチンが15-14でリードして折り返す熱い展開。後半はアルゼンチンが突き放しにかかるも、日本も少ないチャンスからトライを奪い終盤までもつれる形となった。しかし、アルゼンチンBKの個々の突破力を前に、大事な場面で幾度かディフェンスを切り裂かれた日本が涙を呑む結果となり、アルゼンチンが39-27と勝利し2位通過を決めた。
決勝トーナメントの組み合わせ&試合の展望
※開催地のフランス時間
準々決勝(QF)|10月14、15日
- ウェールズ(7)×アルゼンチン(8)
- アイルランド(1)×ニュージーランド(4)
- イングランド(6)×フィジー(10)
- フランス(2)×南アフリカ(3)
※(カッコ内は世界ランキング、10月10日現在の順位)
各プールを勝ち上がった8チームが激突する準々決勝は、これまでの大会に無いほど盛り上がりそうだ。その中でも注目カードは「QF②アイルランド×ニュージーランド」「QF④フランス×南アフリカ」の2試合で、凄まじい戦いになることだろう。これら2試合をはじめ、準々決勝の4試合の見どころを見ていきたい。
① ウェールズ×アルゼンチン
大会前の苦戦する予想から、試合を重ねるごとに調子を上げてきたウェールズ。キッキングゲームが上手く、BKの展開力もあるチームだ。BKの主力選手にケガ人が出ており、彼らが欠場すると厳しい試合になるかもしれない。FW戦で踏ん張ることができれば勝機が見えてくるか。
対するアルゼンチンは、アグレッシブが売りのFW陣が有利になれればチャンスが生まれる。日本戦で何度もラインブレイクを見せた、強くてスピードのあるBK陣にも注目したい。キッキングゲームにも長けており、バックスリー(WTB,FB)は空中戦に強いのも強みか。規律を守りつつ、日本戦で見せた勢いを継続出来れば勝機もあるだろう。
② アイルランド×ニュージーランド
現在世界ランキング1位のアイルランドは、スクラム、ラインアウトのセットピースにおいて抜群の安定感を持つ。ブレイクダウン(タックル後のボールの争奪戦)でも強さを見せ、ディフェンスも固く隙の無いチームと言えるだろう。司令塔で背番号10を付けるジョニー・セクストンの状況判断が抜群で、彼のゲームメイクにぜひ注目してもらいたい。
未だかつて準々決勝に勝利していないアイルランドは、前回の大会の準々決勝でニュージーランドに14-46で敗れている。今回こそ準々決勝の壁を超えられるかも注目される。
ニュージーランド代表のオールブラックスとアイルランドの近年の対戦は、2021年20-29、2022年は3度対戦して42-19・12-23・22-32と、オールブラックスが1勝3敗で分が悪い。オールブラックスのFWの劣勢が近年苦戦している要因だが、今季のオールブラックスを見ているとケガ人が欠場した試合を省いては、FWに激しさが戻ってきて復活の兆しも感じられる。ケガ人が戻ってきたこともありFWで有利になれれば、オールブラックスの得意とする速い展開からチャンスが増えてくるだろう。基本のセットピースはもちろん、ブレイクダウンにおいてのフィジカルバトル、いわゆるFW戦が試合のカギを握るのではないだろうか。
ディフェンスに的を絞らせない、アイルランドの上手い攻撃にオールブラックスが対抗できるかも合わせて注目したい。アイルランドの司令塔セクストンの対面の、10番リッチー・モウンガのゲームメイクも重要になってくる。
③ イングランド×フィジー
タフな試合を予選プールで経験した両チームの戦いは見ごたえがありそうだ。大会前の対戦ではフィジーがイングランドを30-22で破り、イングランドから歴史的初勝利を挙げた。リベンジに燃えるイングランドは、ランニングスキルのあるフィジーの選手を自由に走らせないようFW戦に持ち込みたい。正確なゴールキックで、スコア上でプレッシャーをかけられれば勝利に持ち込めるだろう。
一方のフィジーは、予選プールでオーストラリアに勝利したものの、その勢いが続かず格下相手にも敗れるなどピークを過ぎた感もある。再度スイッチを入れて本来の力を発揮できれば、勝機は十分にあるのではないだろうか。FW戦に持ち込まれたとき、規律(反則しない)をしっかり守れるかも重要になってくるだろう。フィジーが勝利するとワールドカップがさらに盛り上がりそうだ。
④ フランス×南アフリカ
開催国のフランスは強力なFWを武器に、スピードのあるBK陣が縦横無尽に走り回る展開で一気にトライを取る能力がある。これらの展開が多く見られると、フランスに勝利の天秤が傾くかもしれない。予選プールのナミビア戦で頬骨を骨折したSHアントワンヌ・デュポンが、準々決勝から復帰予定となった。世界一のSHと呼ばれるデュポンが出場すれば、フランスに追い風になる事は間違いないだろう。
一方、前回大会のチャンピオンである南アフリカ、も強力なFWを武器に試合を組み立てるチームだ。ラインアウトからのモール攻撃でトライを奪う能力は、世界一と言っても過言ではないくらいモールの攻撃は強力だ。この展開が多く見られると、南アフリカが有利に試合を進めることになりそう。両チームともキッキングゲームにも長けており、FW戦と合わせて注目したいところだ。
「②アイルランド×ニュージーランド」「④フランス×南アフリカ」2試合のカードは、世界ランクの1位から4位に入っているチームの対戦となっている。この中から2チームが準々決勝で姿を消すことは、もったいない気がしてならない。アイルランドとフランスの充実度が印象的だが勝敗の予想は難しく、②④で勝ったほうが、そのまま決勝まで進む可能性が高いだろう。
準々決勝4試合を終えた後の組み合わせ
※時間は開催国のフランス時間
<準決勝(SF)|10月20、21日>
・準々決勝①の勝者×準々決勝②の勝者
・準々決勝③の勝者×準々決勝④の勝者
<3位決定戦|10月27日>
準決勝①の敗者×準決勝②の敗者
<決勝|10月28日>
準決勝①の勝者×準決勝②の勝者
決勝トーナメントの放送は、日本ではJSports、その他では全試合ではないものの日テレとNHKなどで放送があるようだ。ワールドカップは、かつてないほどエキサイティングな大会になっている。決勝トーナメントでは、さらにエキサイティングな試合が見ることができるだろう。ぜひ、皆さんもラグビーの魅力を味わってほしい。
ニュージーランド(NZ)在住。野球少年がレギュラーの座を捨てて高2でラグビー部に転向。無名校ながら花園が狙える位置まで押し上げるなど活躍が認められて企業チームへ。挫折を経験するもオーストラリア遠征を機に海外ラグビーに挑戦したいと思い立ち、全く英語が出来ないのにNZの現地のチームに飛び入りで挑戦。3シーズン繰り返すほどNZラグビーの虜に。その後、NZに永住してプレイを続けるが度重なる脳震盪の影響と最後は首の怪我で一線を退く。
後遺症と向き合い、地道にリハビリの日々を重ねながらライターとして活動中。スポーツだけでなく、投資、料理、お菓子作りなど幅広く興味を持っており、オジサンながらNZの地でラグビー復帰を狙う。