突然ですが、「サル」「パンダ」「バナナ」の3つで、あなたはどの2つが“近い”と思いますか?
サルとパンダを選んだあなたは西洋人で、サルとバナナを選んだあなたは東洋人。また、サルとパンダを選んだあなたは分析的思考の持ち主で、サルとバナナを選んだあなたは包括的思考の持ち主。何を言っているか、いきなりで分からないかもしれません。結論から言うと、パデル(やテニスなどのスポーツ)では「東洋人的な包括的思考の持ち主」の方が上手にプレーできる確率が高いというのが、今回のテーマです。
目次
分類と関係
もう一つ質問です。「ウシ」「ニワトリ」「草」なら、どの2つが近いと思うでしょうか。この実験で、アメリカ人の多くは「サルとパンダ」「ウシとニワトリ」を選び、中国人の多くは「サルとバナナ」「ウシと草」を選ぶそうです。アメリカ人は分析的に考えるために「2つとも動物である」という分類をし、中国人はより「関係性のあるもの」を選ぶことが多いという傾向があるのだとか。ちなみに、私は「サルとパンダ」「ウシと草」を選びました。
包括的思考とは、人や物といった対象を認識し理解するに際して、その対象を取り巻く『場』全体に注意を払い、対象と様々な場の要素との関係を重視する考え方である。 他方、分析的思考とは、何よりも対象そのものの属性に注意を向け、カテゴリーに分類することによって、対象を理解しようとする考え方である。
『木を見る西洋人 森を見る東洋人 思考の違いはいかにして生まれるか』(リチャード・E・ニスベット著、村本由紀子訳、ダイヤモンド社)より引用
この分類と関係の話で興味深いのが、花見は理解できるけれど、紅葉狩りは理解できないという外国人が少なくないということ。私たち日本人の多くは、紅葉によって季節の移ろいなどの「関係」を感じます。しかし、西洋人の中には「葉っぱを見て、なぜ日本人は感動しているんだ?」と不思議に思う人が多いそうです。「花」に分類されているから見る、「葉」に分類されているから見ない。このことが、今日の本題です。
技術点より構成点から考える
パデルなどのスポーツを例に考えてみましょう。私は何の競技かに関わらず、スポーツというものには「心・技・体・頭」という4つの大項目があると思っています。例えば、技術の項目にはバンデッハやボレー、体の項目には筋力やスタミナなどが入っています。
※バンデッハ(Bandeja)とは
スペイン語で「お盆(トレイ)」を意味し、自分がネットポジションをキープするために打つパデル特有のショット。お盆を持つように構えることから名前のついたショットで、どちらかというと守備的なショットです。テニスに例えると、ベースラインからネット前に行く際に打つアプローチショットのような目的を持ちます。
これは、まさにパデルを構成するそれぞれの分野と、パデルの関係を包括的に捉えていると言えます。 パデルというスポーツのバンデッハという技術には、どんなことが求められるのか。バンデッハをより有効に使うために、バンデッハの「前・後」のショットにはどんなことが求められるか。私は、このようなことを考えます。
一方で、バンデッハ(という技術)の「スピード」「威力」「フォーム」などにフォーカスする人もいます。これは、パデルというスポーツから、バンデッハを「分類」して捉えていると言えるでしょう。フィギュアスケートのような「技術点」がある採点競技なら、「技術」だけを取り出してもまだ良いのかもしれません。しかし、パデルにはそのような得点方法がありませんので、技術(の一部分)だけにフォーカスするのは、あまり意味がないと私は考えています。
これはテニスと同様ですが、パデルも技術そのもので得点が入る(綺麗に打ったら特典が入る、強いボールを打ったら得点が入るなど)ということはありません。もちろん、綺麗に打つことや強く打つことのメリットはありますが、各技術はあくまでポイントを取るための「手段」です。
フィギュアスケートには、技術点の他に「構成点」というものもあります。パデルやテニスの場合、まずはこの構成点を考え、その後に技術点を高めていくという順番がベターだと思っています。
- パデルとはどんな競技か
- パデルの中でのバンデッハという技術にはどんなことが求められるか
- その求められているものを習得するにはどのような練習をしたらいいか
この順番で考えていくのがベターかと思いますし、逆から考えていくのに無理があることは、恐らく容易に想像がつくでしょう。プレーで行き詰まったら一度立ち止まり、自分が「分類」で見ているのか、それとも「関係」で見ているかをチェックしてみることをおすすめします。
2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。