トム・ブレイディ(タンパベイ・バッカニアーズ)対パトリック・マホームズ(カンザスシティ・チーフス)の、新旧スーパースター対決で話題を呼んだ2021年のスーパーボウル。戦前の大方の予想を覆し、バッカニアーズが大差で勝利した。43歳のブレイディは、これで7回目のスーパーボウル制覇。前年まで在籍していたニューイングランド・ペイトリオッツのヘッドコーチ、ビル・ベリチックの采配のお陰だとする冷めた見方も完全に否定して、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)歴代最高選手「G.O.A.T. – Greatest Of All Time」の称号を改めて揺るぎないものにした。
ブレイディはバッカニアーズと2年契約を結んでおり、まもなく開幕する2022年シーズンも万全な体調で戻ってくることを期待されている。と言うのも、実はブレイディは昨シーズンをずっと左膝の内側側副靱帯(MCL)が断裂していた状態でプレイしていて、今オフに手術を受けたことが最近明らかになったのだ。43歳で深刻な故障を抱えたままフルシーズンを戦い抜き、スーパーボウルを制した。まさに超人と呼ぶしかない。
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コンディショニングの概念を変えつつあるブレイディの研究熱心さ
激しいコンタクトを伴うアメフトというスポーツ。NFL選手の平均年齢は約26歳だと言われている。そんな中でブレイディは驚異的なキャリアの長さを誇るだけではなく、その最高峰の舞台で類まれなパフォーマンスを発揮し続けている。そして、45歳を過ぎても現役を続行する意欲を明らかにしているのだ。
そんなブレイディは、コンディショニングの部分でも独自のアプローチと研究熱心さで知られている。かつてブレイディがイチローに「ストレッチングのやり方を教えてほしい」とテキストを送り、そのメッセージを受け取ったイチローは「トム・ブレイディってどこの誰だよ?」と周囲に聞いて回ったという。流石のイチロー、そして流石のブレイディとも言える有名なエピソードだ。
ブレイディが決して口にしない食品のリスト
ブレイディについては、あらゆる角度から「なぜブレイディはあんなに凄いのか?」という類の報道が米国のメディアで繰り返し行われている。その中には、ブレイディの食生活にスポットを当てたものもいくつかある。その中の1つ、食生活やダイエットの専門サイト『Eat This, Not That! 』の記事(*1)によると、ブレイディは自分の身体に入れる食べ物1つ1つについても極めて厳格なルールを自分に課していることが分かる。
*1. The Surprising Foods That Tom Brady Never Eats, According to His Personal Chef
- 8割は植物由来(Plant-Based)、2割は動物性(肉より魚が多い)
- アルコールは一切摂らない
- コーヒーやカフェインも一切摂らない
- 砂糖も、MSGも、精製された炭水化物(米、パン、麺など)も摂らない
- グルテンが入った食べ物(パン、クッキー、クラッカーなど)も摂らない
- 加工された肉(ベーコンやソーセージなど)も摂らない
- 油で揚げた食べ物(フライドポテトなど)も摂らない
- 果物や野菜であっても、イチゴ、トマト、茄子、マッシュルーム、ピーマンは食べない
- 添加物が入った塩やキャノーラ油は避ける
- 乳製品も摂らない
「一体、何を食べているのだろう?」と思ってしまうほどの食品禁忌リストだろう。要するにブレイディの食生活は、ほとんど宗教的な菜食主義者(ビーガン)のそれに近いようである。それだけではなく、糖質までも可能な限り排除している。
植物由来の食品を食生活の中心にすることも、糖質を制限することも、そしてもちろんアルコール類を断つことも、現在のスポーツ界においてはどれも決して珍しいことではない。2019年に公開されたドキュメンタリー映画『The Game Changers(ザ・ゲームチェンジャーズ)』は、あらゆる分野のトップスポーツ選手たちが肉食を止めて野菜中心の食事をすることで、いかにコンディションとパフォーマンスを向上させているかをテーマに世界中のアスリートやスポーツ愛好家に衝撃を与えた。ブレイディの食生活はスポーツ界の主流になったとは言えないが、革命的、あるいは最先端であると呼ぶほどのものでもない。つまり、それを徹底できるかどうかが、超一流選手であり続けるための重要なポイントなのだろう。
ブレイディがこうした食生活を含む自身のコンディショニング法をまとめた書籍『The TB12 Method』(*2)は、新たなアスリートのバイブルになりつつある。驚くべきことに、この本は発刊されてから4年経った今でも日本語訳がなされていない。
*2. The TB12 Method: How to Achieve a Lifetime of Sustained Peak Performance.
例えば肉を腹一杯食べて、あるいはプロテインを摂取して、重いものをガンガン挙げるウェイトトレーニングに取り組む。そういうコンディショニング法は、どうやら過去のものになりつつあるようである。
[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。
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