公認スポーツ栄養士・馬淵恵さんにお話を伺い、「パフォーマンスを上げるための食」について5回に分けお届けしている本連載。前回は、“排便チェック”の大切さについてお届した。便から分かる自身の健康状態を、ぜひ一つの指針として活用していただきたい。
・前回記事:公認スポーツ栄養士が伝える、排便チェックの大切さ
アスリートをはじめ運動に取り組む人が身体を作るために食事を考えるとき、まず学ぼうと考えるのが「スポーツ栄養」だろう。しかし実際には、「実践するのは難しい」「時間がない」「経済的に負担になる」といった声も少なくない。食事は毎日のことだからこそ、なるべく負担にならずに続けられるものが理想だろう。そこで今回は、実際に何を食べたら良いのか、より具体的な食事内容についてお届する。
目次
公認スポーツ栄養士でも「スポーツ栄養」の実践は難しい
公認スポーツ栄養士・馬淵恵です。一般的にスポーツ栄養を学ぶと、必ずと言えるほど出てくるのが「基本のフルコース(基本の6皿)」というもの。以下のように構成され、それぞれ以下のような役割を担います。
- 主食:エネルギー源
- 汁物:水分、塩分補給
- 主菜:たんぱく質
- 副菜:ビタミン、ミネラル、食物繊維
- 果物:エネルギー源、ビタミン、ミネラル、
- 乳製品:たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル
どれも大切な栄養源・素であり、身体を消耗しやすいアスリートや運動愛好家には欠かせません。しかし、私は現場でこの基本のフルコースについて長年伝えてきましたが、なかなか選手の実践に繋がらないことが課題でした。なぜなのか聞いてみると、「大切なのは分かるけど、毎食こんなに作れない」「どのくらいの量を食べたら良いか分からない」という声。結局、正しいスポーツ栄養の献立でも、続けられないから結果に繋がらない問題があったのです。
私自身も、息子が二人いる主婦。実は、毎日毎食で基本のフルコースを実践するのは難しいと思っていました。そんな中、私が出会った献立バランス・量がわかりやすい食のスタイルをご紹介します。
運動時のエネルギー源となるお米をしっかり食べる
まずは何を食べたらいいのか、食材についてお話しましょう。基本のフルコースはスポーツ栄養学としても正しく、実践できるのならば何も問題はありません。しかし品数(皿数)が多くなるため、何を基準に優先順位を考えて献立を組めば良いのかは分かりにくいかもしれません。
まず、運動するアスリートにとって重要なのが、身体を働かせるエネルギー源の炭水化物です。炭水化物にはお米やパン、麺、いも類など、さまざまな種類があります。この中で、しっかり主食として食べて欲しいのは「お米」。その理由は、お米がアスリートや運動する人にとって最適な食材だからです。その理由が分かる、お米の特徴を見てみましょう。
<栄養面>
- 脂質が少なく燃焼力の高い炭水化物
- たんぱく源としても利用できる
- ビタミン、ミネラル、食物繊維も含むマルチな食材
<食べ方>
- 粒状なのでよく噛めるため、消化吸収力・代謝アップ・整腸作用
- 水のみで炊けるので、余計な添加物が入らない
また、手軽に購入できる食材の中でも安価なので家計に優しく、続けられやすい点も挙げられます。お米は毎日食べても飽きませんし、おかずも和洋・エスニックなど、どんなものにも合うでしょう。お米は燃焼効率の良い炭水化物であり、一般の方はもちろん、アスリートや運動する人にとって最適な炭水化物なのです。
お米はたんぱく源でもある
近年、糖質制限ダイエットの流行によって「お米は糖質の塊だ」という誤ったイメージが出回ってしまいました。しかし古くから、私たち日本人はたんぱく質を主に穀類から摂取してきたのです。つまり、今ほどお肉や魚を食べていなかった時代から、お米をしっかり食べてたんぱく質を摂取してきたということ。たんぱく質は、私たちの身体を作る材料となる栄養素です。
お米には約6%のたんぱく質が含まれています。「たった6%じゃないか」と思うかもしれませんが、お米は主食として他の食材より量を食べます。お米2合で約19gのたんぱく質を摂取可能。これに対し、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020」によれば、一日におけるたんぱく質量の摂取推奨量は男性60g〜65g・女性50gです。お米を主食にして、おかずにお肉やお魚、卵などを一緒に食べることで、この推奨量を満たすことができます。
たんぱく質量だけを考えると、お肉やお魚中心の食事が良いように思えます。しかし、そうすると今度は脂質が上がってしまい、脂質過多になって胃腸の消化吸収にも負担がかかってしまうでしょう。お米は燃焼効率の良い炭水化物・エネルギー源、あるいは身体の材料となるたんぱく源として活用できるマルチ食材なのです。
お米の不足分を補ってくれる食材
お米は燃焼力の高い炭水化物ですが、「たんぱく質量」と「必須アミノ酸のバランス」を表すアミノ酸スコアは65。例えるなら100点満点中65点となります。その不足分を補ってくれる組み合わせ食材が「大豆食品」です。
大豆食品は豆腐や納豆などさまざまですが、お米と相性が良いのがみそ。日本の食スタイルの定番とも言える「ごはん+みそ汁」こそ、アミノ酸スコアが100となる最強の組み合わせなのです。
みそ汁の良い点としては、以下のようなことが挙げられます。
- 具沢山にすれば、いろんな食材をとれる調理法としても理想的
- 余計な調味料を増やさなくてOK
- 汁まで飲んで食材の栄養素がムダなく摂れる
- 体を温める温熱効果
- 胃腸の粘膜をケアする
- 血圧が安定する
- カリウムを摂取して筋肉痙攣の予防
また、みそは発酵食品なので腸内環境を整えてくれるなど、色んな嬉しい働きがあります。
私は秋田県出身。上京して秋田以外のみそも口にしましたが、やはり地元のみそがお気に入りです。今は岐阜に住んでいますが、我が家の定番は「秋田のみそ」を使ったみそ汁。関西に住んでいる長男も、わざわざ秋田からみそを取り寄せて自炊しています。普段からみそ汁を食卓に並べて親しむことは、味覚形成にも繋がるでしょう。最初は顆粒だしから、あるいはインスタントのみそ汁からでも構いません。どんなことも「できるところ」から初めてみてください。
3皿でOKの「食アススタイル」
私自身が基本のフルコースを実践できずに悩んでいたとき、出会ったのが一般社団法人食アスリート協会の伝えている「3つの丸(お皿)」(食アススタイル)という考え方でした。具体的には、以下のような内容です。
- 1皿目:主食のお米(エネルギー源)
- 2皿目:汁物は具沢山みそ汁(水分摂取・ビタミン・ミネラル・食物繊維)
- 3皿目:主菜(お肉・お魚など)(タンパク質・脂質)
+果物(エネルギー源・ビタミン・ミネラル)、ときには牛乳(タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル)をつける。
基本はごはんと具沢山みそ汁。ここに好きな主菜(おかず)をつけて、果物や牛乳をプラスします。これは、基本のフルコースの「副菜」を汁物に入れて具沢山みそ汁にして見せ方を変えただけ。基本の内容は同じです。
そして、ごはんとおかず(みそ汁も含む)の割合は6:4。お米を軸として「主菜(おかず)はご飯を美味しく食べるお供」と捉えてみてください。この6:4という割合は、厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020」のPFCバランスから算出されています。
食事摂取基準とは国民の健康維持や増進等に、エネルギーおよび各栄養素の摂取量の基準を示したもの。つまり、元気で健康であるために、もっとも良い食事バランスということです。この6:4という割合に、カロリー計算や質量計算など面倒なことは必要ありません。あくまでも、見た目だけでバランスが整います。
この食アススタイルをアスリートや保護者の方、運動愛好家に伝えると、「分かりやすい」「とても気が楽になった」「これなら続けられる」と喜びの声があがりました。その理由はみるみる効果が出て、ストレスなく続けられることにあるのでしょう。食がストレスになってはいけません。前々回にお伝えした「食は楽しい」が土台にあることが、もっとも大切なことなのです。
おかずが多くなってしまった日は?
外食などで6:4のバランスが取れず、おかずが多めになってしまうことがあるかもしれません。そんなときは、1日の中で6:4になるようバランスを取る。もし1日で難しければ、1週間の中で6:4になるよう調整してみましょう。日本は昔からお祝い事など「ハレ」(非日常)の食事はおかずが多く、普段の「ケ」(日常)の食事はお米中心の献立でした。このように、メリハリをつけた食事で成り立っていたのです。
現代は、おかずにこそ栄養があると思う人が多いかもしれません。しかし6:4のバランスこそ、パフォーマンスを上げるのに最適です。「記録をクリアしたい」「パフォーマンスを上げたい」「減量・増量したい」など。ご自身の目標に向かってお米を中心にしっかり食べることで、以下のようにさまざまな効果が期待できるでしょう。
- 排便の調子改善
- 体温アップ
- メンタルの安定
- 持久力アップ
- 筋力アップ など
日々の食事を見直し、まずできることから始めてみてください。次回は試合や練習などで重要な、持久力や集中力にも深い関係のある「補食についての考え方」についてお届けします。
[プロフィール]
馬淵 恵(まぶち めぐみ) 共立女子大学食物学科管理栄養士専攻を卒業後、大手食品メーカーで営業を担当。結婚出産を経て2013年「食を育てる」をコンセプトとしたFREC株式会社設立。大手エステや行政、病院、企業での生活習慣病、ダイエットなどで、延べ5万人を超える方々に食のアドバイスを提供。全国で幅広い年代に向け食と健康について発信している。 現在はスポーツ食育を中心にプロ野球選手や実業団の陸上チームや水泳クラブ、高校野球・ラグビー・サッカー、大学ラグビー・アメリカンフットボールなどで、栄養サポートを全国で展開している。企業健康講演・新人社員研修・行政学校での食育講演など年間50本以上の実績。妻として、働く1人の女性として、女性が自分らしい働き方を見つけられる仕組みづくりをミッションに様々な活動を行っている。二児の母。 ・著書「かんたんやさしい食べるを変える 米トレ」(報知新聞社出版)。 |
スポーツメディア「New Road」編集部
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