スマートウォッチが普及したことで、身近になった言葉の1つに「最大酸素摂取量(VO2Max)」がある。VO2Maxは強度の高い運動時に体が消費する酸素の最大量を示し、特に耐久系アスリートの心肺能力を評価する上で重要な指標になるものだ。このVO2maxは「ml/kg/min」という単位で表される。大雑把に分類するならば、普通の人で40~50、ある程度スポーツに取り組んでいる人なら50~60、そして競技アスリートなら70を越える数値を出すことも多い。
VO2Maxの正確な数値を把握するには、本来なら専門施設で計測する必要がある。呼気ガス分析用マスクを着用し、トレッドミルやエアロバイクで時間とペースを指定され、徐々に強度を高めながら運動を行う。もちろん、それなりの費用や時間がかかるので、専門アスリートではない一般人が簡単に利用できるものではない。
スマートウォッチはそれを手首に巻いて生活や運動を行うだけで、VO2Maxをユーザーに知らせてくれる。大変に便利な機能ではあるが、残念ながらその数値はあくまで推定値であり、必ずしも正確である保証はない。
目次
VO2Maxの推定値を算出する他の方法
筆者もスマートウォッチの1つを使用しており、そこではVO2Maxの数値が52~56の間であると表示されている。この数値がどれほど正確かは不明だが、スマートウォッチが出現するよりずっと以前から使われてきた、VO2Max推定値を算出する方法と比較してみた。
1)心拍数から算出する方法
心拍数モニターがあれば(多くのスマートウォッチにも装備されている)、もっとも簡単にVO2Max推定値を算出する方法は以下数式で計算することである。
【計算式】VO2Max=15×最大心拍数/安静時心拍数
最大心拍数とは、激しい運動で限界値に近づいた心拍数のこと。そのため、運動習慣のない人が計測することは難しいが、一般的には「220-年齢」という計算式で推定できる。つまり年齢が高くなるにつれ、下がっていく傾向がある数値なのだ。
安静時心拍数とはその名の通り、じっと安静にしているとき、逆に言えば運動していないときの心拍数のことである。成人はおよそ毎分60~100 bpmが正常値だとされているが、その値には個人差が大きい上、日々の体調によっても変動する。一般的に心肺能力が高い人は、この安静時心拍数が低くなる傾向がある。
筆者の場合、最大心拍数をかつてスマートウォッチで表示された最大値(198 bpm)を使い、安静時心拍数もやはりその日に同じスマートウォッチが表示した数値(57 bpm)を使った。すると、この方法でのVO2Max推定値は52.1だった。
2)クーパーテスト
12分間走の最大距離(m)を測定し、以下の計算式でVO2Max推定値を算出する方法である。
【計算式】VO2Max =(距離-504.9)/44.73
陸上競技トラックなど正確な距離を測定できる場所を使えるなら、あとはストップウォッチさえあれば良い。言うのは簡単だが、そこで実際に行うのは長距離走そのものである。そのため、長距離ランナー以外のアスリートには実行が困難な方法かもしれない。
筆者のスコアは2,700m。上記の計算式で算出したVO2Max推定値は49.1だった。
3)ビープテスト
20mのシャトルランを専用タイマーの合図音(ビープ)以内で繰り返し行い、そこで得られたレベルと最大スピード(km/h)を用いる方法。合図音の間隔は9.0秒から始まり、レベルごとに短くなっていく。2回続けて合図音までにラインに到達できなくなった時点で終了となる。
クーパーテストと異なるのは、短距離走をインターバルのように繰り返すことだ。そのため、サッカーやバスケットボールなど球技系選手に向いた方法と言えるだろう。逆に言えば、長距離ランナーはやや苦手とするかもしれない。ビープテストのスコアを用いて、以下の計算式でVO2Max推定値を算出する。
- a)レベル:VO2Max=12.1 +(レベル×3.48)
- b)スピード:VO2Max=最大スピード×6.55–35.8
筆者のスコアはレベル10、スピードは13.0 km/h だった。この計算式にあてはめると、VO2Max推定値はa) 46.9、b) 49.4となった。
まとめ
以下のように、算出する方法によってVO2Max推定値には差異が生じた。しかしこれは、ある意味で当然の結果とも言えるだろう。なぜなら、VO2Maxの数値は安定したものではなく、その日の体調によっても変化するものだからだ。そして、トレーニングによって数値を向上させられるし、逆にトレーニングしなければ確実に低下する。
VO2Max 推定値(ml/kg/min) |
|
スマートウォッチ |
52 ~56 |
最大心拍数と安静時心拍数 |
52.1 |
クーパーテスト |
49.1 |
ビープテスト(レベル) |
46.9 |
ビープテスト (距離) |
49.4 |
クーパーテストやビープテストなどは、それらを真剣に最大出力で行えば心肺能力を鍛える格好のトレーニングにもなる。どちらも呼吸がゼーゼーするほどの苦しいトレーニングだが、試してみる価値はあるだろう。VO2Maxは自身の心肺能力、そして特に耐久系アスリートならパフォーマンスにも繋がるものだ。ここで取り上げた方法、あるいはスマートウォッチで現在のVO2Maxを測定し、以後のトレーニングに活かしてみてはいかがだろうか。
[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。
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