運動すれば汗をかき、多くの方はそれを拭くのにタオルを使うだろう。例えばマラソン大会では“フィニッシャータオル”が用意されることが多く、私も手元にたくさん持っている。しかし実は、汗拭きアイテムはタオル一択ではないようだ。
より機能面で優れた点を持ち、少しずつユーザーが増えているものがある。それが、“手ぬぐい”だ。しかもなんと、従来からある手ぬぐいではなく、スポーツ等のシーンに最適化された製品がある。それがCHAORASブランドの「スポーツてぬぐい」だ。今回お話を伺ったのは、そんなスポーツてぬいぐいを手掛けるスタジオ・ワット社の森野哲郎さん。手ぬぐいをスポーツで使うという発想の原点、そして独自のメリットなどについてご紹介しよう。
目次
日本伝統の手ぬぐいに、新しい実用的な用途を
大阪府では堺市が手ぬぐいの産地で、現在もいくつか工場がある。明治から昭和初期には、布おむつにもてぬぐいの記事が使われていたという。しかし需要の変化と共に、その用途は和雑貨などに移り始める。とはいえ、和雑貨では需要が安定しないし、手ぬぐいの市場そのものは広がらない。では、どんなシーンに需要が見出せるのか。そこで辿り着いたのが、アウトドアやスポーツシーンだったという。
昔からタオル代わりのアイテムだった手ぬぐい。しかし同様にその用途でも使用されることは減り、中には額に入れて飾られるような製品も登場した。しかし、それではまったく実用的ではない。
「コンパクトで乾きやすく、そして軽い。その利点を生かして、もっと実用的な使われ方ができないかと思ったんです。」
森野さんは“スポーツてぬぐい”の着想について、そのように話してくれた。もともとご自身がアウトドア好きということもあり、アウトドアやスポーツと相性が良いと思っていたという。最初は綿100%の従来からある手ぬぐいを、単純にデザインのみアウトドア向けにした製品をアウトドア会社に提案。しかし、これは残念ながら受け入れられなかった。
「残すべきところは残し、変えるべきところは変える。そうして、時代に合わせた製品へアップデートする必要がありました。」
具体的には横糸にバンブーレーヨンを加え、ほつれやすい端部分を補正。さらに通常は90cmの手ぬぐいを、スポーツタオルに近い110cmに長くしたとのこと。これら変化を加えたことで、スポーツてぬぐいの土台ができた。
タオルとは違う、手ぬぐい独自の良さとは
天然素材を用いた手ぬぐいには、化学繊維で作られているタオルとは違う良さがある。では、もともと手ぬぐいの持つポテンシャルを、今の時代で実用してもらうにはどうすれば良いのか。手ぬぐいの産地も縮小している中、これを盛り上げたい気持ちもあったという森野さん。タオルとの違いについて、次のように教えてくれた。
「軽量で持ち運びやすく、タオルより速乾性に優れています。そしてこの速乾性によって、臭いが出にくいのも大きな特徴ですね。タオルなどが臭うには、乾きが遅いことで雑菌が発生することが原因なので。また、タオルは使い続けると固くなりますが、手ぬぐいは逆に、縒り(より)がほぐれて柔らかくなるんです。」
また、肌に優しいのも手ぬぐい独自のポイント。天然繊維をベースとしているため、肌がガサガサすることがない。実際に使用している方からも、よく「かゆくならない」と言われるとのこと。触れたとき肌に引っかかる部分もタオルなどに比べて少なく、肌の弱い方などには大きなメリットと言えるだろう。
なお、抗菌性については、SEK加工というものを施すことで高めている。これは、抗菌効果があるとされるヒノキチオールを含侵させるというもの。工程上の都合から施せない製品もあるというが、直に触れるもののため気になる方は多いはず。1つ1つ、改良点を見出しながらアップデートを続けているようだ。
製品としては通常のスポーツ向け以外に、ハンカチ代わりに使いやすい短めのもの、そして首元に巻くことのできるSNOOD(スヌード)がある。いずれも、デザインの種類は実に豊富だ。デザインを考えるのは難しいと言うが、しかし好みというものは人それぞれ異なる。どんなデザインなら、どんな人に使ってもらえるのか。それもまた、手ぬぐいという伝統品を現代に再び多くの方々に使ってもらうための工夫と言えるだろう。
良さを正しく伝え、より多くの方に知ってほしい
「トレイルランニングでは、スポーツてぬいぐいの認知が広がってきたと感じています。ここから今後はロードでのランニング、そして登山でも、より多くの方に知ってもらいたいですね。例えば登山は山小屋てぬぐいを使う人が多いですが、もっとオシャレなものは喜ばれるかもしれません。あるいはソロテントを持って山を縦走したり、バイクツーリングしたりするファストパッキングでも、軽量で持ち運びやすいスポーツてぬぐいは需要があるのではないでしょうか。」
ランニングや登山では、必要なものは装備として携帯しつつ、しかしできるだけ軽量化したいと考える人が多いだろう。私もランナーだが、確かにタオルを持って走るのは少し煩わしい。とはいえ汗は出るし、そのまま放置すると不快で不衛生だ。重量が気にならずサッと取り出せるスポーツてぬぐいなら、例えば夏場のように暑い時期でも快適にランニングできるだろう。
また、森野さんは屋外だけでなく、スポーツジムでも使えるようになってほしいと話してくれた。ジムのマシンに色鮮やかなスポーツてぬぐいが掛けられていたら、それだけで目を惹きそうだ。ファッション性も高いため、カッコよくありたい、キレイでありたいという方々にはピッタリかもしれない。
しかし、今後に向けては課題もある。スポーツてぬぐいの良さ、そして使い方について、ちゃんと情報を的確に伝え切れていないのではないかと言う。
「色んなことに使えるんですが、逆にそれだとボヤけてしまいます。まだ、その良さを伝え切れていない気がしているんです。また、せっかく手に取ってもらっても、使い切れずお蔵入り…なんていう方もいるかもしれません。機能面や利点、そして使い方。SNSなどを通じて情報は発信していますが、まだ十分ではありません。例えばシーン別に細かく提案するなど、伝え方の工夫が必要です。これにしっかり取り組み、多くの方にリピーターとなって愛用してもらいたいですね。」
手ぬぐいと聞けば恐らく誰もがその姿をイメージできる、日本の伝統品。これを時代の需要に合わせてアップデートし、廃れることなく人々にとって身近なものであり続けて欲しい。森野さんのお話からは、その熱い気持ちが感じ取れた。これからさまざまなスポーツシーンで、手ぬぐいを目にする機会は増えていくのかもしれない。
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。