トレーニングで自分を追い込むことに加えて、その間に回復することの重要性を多くのアスリートが認識し始めた。そして、そのトレンドは競技アスリートだけではなく、一般のスポーツ愛好者たちの間にも広がっている。

筋トレを例にとれば、いったんは傷ついた筋繊維は休んでいる間に回復し、少しずつ以前よりその太さが増えていく。それが超回復と呼ばれる現象だが、トレーニングそのものや栄養についての方法論は数多くあっても、回復に関してはあまり詳しく語られることはなかった。これについて現在から10年以上も前、2011年に発表されたある研究(*1)では、睡眠時間が長くなるほど筋繊維の回復が早まることを証明している。

*1. Sleep and muscle recovery: endocrinological and molecular basis for a new and promising hypothesis. 

こうした研究がなくても、睡眠が体力回復のために大切なことは誰でも分かっているだろう。しかし筋トレで挙げた重量やセット数、あるいは摂取したカロリーやプロテインの量を記録することはあっても、自分の睡眠時間をパフォーマンスと関連させて把握していた人は少なかったのではないだろうか。

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睡眠に関するデータを可視化し、さらに解析する新たなテクノロジー

ここ数年、睡眠と健康に関連する分野でApple Watchに代表されるスマートウォッチや、FitbitWHOOPなどフィットネストラッカーの進化が著しい。これら製品の多くが、ユーザーの睡眠時間だけではなく、そのパターン、そして心拍数などのデータを24時間記録する機能を持っている。さらにはそうしたデータを統合的に解析し、ユーザーの心身状態を評価したうえで、トレーニング量と強度のアドバイスを提供する機能を備えているものも多い。

睡眠と回復に関心がある人がこうした製品を購入するのか、あるいはこうした製品を使い始めた人が睡眠と回復に関心を持つようになるのか。まるでニワトリと卵のような話ではあるが、その相乗効果がますます高まってきているように思える。

アスリートの栄養も回復視点へ向いている

回復への関心の高まりは、アスリートが摂取する食べ物にも大きな影響を与えている。アスリートの食事も、以前は競技パフォーマンスに直結して考えられてきた。パワー系アスリートは筋肥大効果が、耐久系アスリートは体内のグリコーゲン量を増やすことが、それぞれの主な関心事であったと言えるだろう。

そうした傾向がまったく無くなったという訳ではないが、それよりもいかに回復するか、具体的には体内の抗炎症作用を抑えることを栄養学に求めるアスリートが増えてきている。植物由来やビーガン、グルテンフリーなど呼び方はさまざまだが、少なくとも従来のスポーツ栄養学の常識からはかけ離れた食生活を送る、トップアスリートの存在がクローズアップされてきている。以前にご紹介したトム・ブレイディやスコット・ジュレクは、その最たる例と言えるだろう。

スポーツの種類にもよるが、たとえプロのアスリートであっても、トレーニングに費やす時間は1日のうち数時間以下でしかない。一般スポーツ愛好者なら、トレーニングに使える時間はさらに短くなる。それ以外の長い時間をいかに過ごすかは、スポーツのパフォーマンスを左右する大きな要素だ。今後、この分野の研究とテクノロジーの恩恵は、ますます進んでいくのではないだろうか。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。