初めまして、プロトライアスリートの古山 大(ふるやま たいし)です!
突然ですが皆さんは“トライアスロン”と聞いて、まっさきにどんなことを思い浮かべるでしょうか?「丸一日かかる」「最後にフルマラソン走る」「オリンピック種目」など色々ありますが、多くの方は「泳いで、自転車に乗って、走る、なんだかキツいスポーツ」という印象が強いのではないでしょうか。
諸説ありますが、そもそもトライアスロンが「この世で一番キツいスポーツをしたい」というところから発祥がしていると言われます。そのため、この印象は間違ったものではありません。でも、トライアスロンはとても奥が深く、面白いスポーツです。そこで今回は、私がトライアスロンという競技の特異性を表していると思う「トランジッション」についてご紹介します。
目次
トランジッションって何?
トランジッションとは、水泳から自転車、あるいは自転車からランニングという各種目の繋ぎの部分を表します。水泳のゴーグルを付けたまま自転車には乗れませんし、ヘルメットをかぶったままランニングすると邪魔ですよね。そういった各種目の装備品を付け替える部分を、トライアスロンではトランジッション(transition)と呼ぶのです。そして水泳や自転車、ランニングのコースと同じように、トランジッションも行う場所が定められています。その区画を「トランジッションエリア」と言い、ここは「競技コースの一部」です。
競技コースの一部ということで気づいた方がいるかもしれませんが、トランジッションエリア内でヘルメットを被ったり靴を履いたりする「次の種目への準備」という行為は、すべて競技時間に含まれます。そのため、トライアスロンにおいては自分の能力を鍛えるのと同じくらいに、「トランジッションでいかに素早く、かつ完璧に次の種目へ向けた準備を済ませるか?」についての研究が重要になりす。着替えの時間も競技に含まれるなんて、他の競技にはなかなか無いのではないでしょうか。
トランジッションを素早くこなすコツ
私はトランジッションを早く完璧にこなすために、もっとも重要なのは事前の準備だと思っています。例えば水泳を終えてバイクへ向かうとき、ヘルメットのあご紐を開いた状態で置いておくのか、閉じたまま置いておくのか。これだけで数秒のタイムロスが生まれます。
「水泳や自転車、ランニングだと辛い思いをしてやっと縮めることができる1秒を、トランジッションであれば簡単に短縮させることができる。」
ということで、トライアスリートはトランジッションエリアに置いている装備品にちょっとした工夫を加えています。例えば自転車のヘルメットは、留具の部分がマグネット式になっているものが最近のメジャーです。マグネット式にすることで、顎下の死角になる部分でもスムーズに留具をはめられるという利点があります。また、ペダル固定式のバイクシューズは乗車前からペダルに取り付けをしておき、裸足で自転車に飛び乗った後に自転車を漕ぎながら車上でシューズを履きます。そして、ランニングシューズの靴紐はゴム紐に交換して、足を入れるだけで走り出せるように(紐を結ばなくてもいいように)なっているのです。さらに、ランニングシューズを履くとき足がシューズの口に引っかかって履きにくくならないよう、シューズの口にベビーパウダーやワセリンを塗り、スムーズに履けるようにしている選手が多く見られます。さらにもっと細かいところでは、次のような工夫もあります。
- バイクの乗り出しをタイムロス無く漕ぎ出せるよう輪ゴムでペダルの向きを固定
- サングラスはトランジッションエリアで付けず、ヘルメットの空気穴に差し込んでおいて自転車を漕ぎながら装着
- ランニングシューズを並べるときは、持ち上げやすいよう左右のシューズを拳一つ分開けて配置
- ヘルメット脱着の動作にミスが起きないよう、普段から体に染み込ませるように何回も何回も繰り返し練習する など
何が起きるか、何がタイムロスに繋がりそうか、どういうミスが起きそうか。そして、それらはどんな工夫をすれば改善できるかを事前に予測し、一つ一つを潰していくよう準備するのがトランジッションです。
そして、これらの工夫に関しては最適解というものがありません。選手がそれぞれ研究や工夫を繰り返しながら、自分に合った方法で設置しています。そのため、もし機会があれば大会のトランジッションエリアを覗いてみると、各選手の個性が出ていて面白いかもしれません。
海外遠征で見たトランジッションの工夫
先月、海外へ遠征してきたのですが、遠征先のレースでも色々なトランジッションエリアでの準備を見ることができました。その中で特に感じたのが、トランジッションエリアに入ってから準備し、次の種目に出ていく導線を何度も確認している選手が多いなということ。自分の準備の傍らで観察していたのですが、どうも彼らは「どれくらいのスピードと勢いで自分の装備品がセットしてある場所に駆け寄れば、スムーズに準備に移行できるのか」を探っていたようです。私が確認している限りでも3~4回はトランジッションエリアに入り、準備して出ていくという行為を繰り返し確認していました。
たかが数秒のために、それだけの準備が果たして必要なのか。そうと思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、そのわずか数秒さえ切り詰めていこうとするのが、トライアスロンという競技です。競技時間に対してわずかな差でしかありませんが、それさえも切り詰めることに喜びを感じるような人々が行うようなスポーツ。ただ辛いだけではないトライアスロンに、ぜひ皆さんも挑戦してみませんか
[著者プロフィール]
古山 大(ふるやま たいし) 1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> |
1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。
<主な戦績>
2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝
2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝
2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位
2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位
2021年「日本トライアスロン選手権」4位