スカッシュは「実力が出やすいスポーツ」、そしてテニスは「番狂わせが起こりにくいポーツ」と言われることがあります。では、パデルはどうでしょう。
テニスやスカッシュの「1ポイントの平均ラリー回数」は、どれくらいかご存知ですか?統計を取る対象によって数字は異なると思いますが、国際大会に出ている選手のデータによるとテニスは「4〜5回」でスカッシュは「9〜10回」とのこと。この統計からも分かるように、スカッシュは「フィットネスのゲーム」とも言われることがあります。パデルのデータは手元にないので肌感覚になってしまいますが、恐らく「テニス以上スカッシュ以下」のような気がしています。
少なくとも、テニスより平均ラリー数が少ないということはないでしょう。ですから、パデルもテニスやスカッシュと同様に「実力が出やすいスポーツ」だと考えて間違いないと思います。
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勝率と実力
勝率が高いということは、つまり「実力がある」ということ。 ただ、実力とランキングがイコールかというと、ランキングの算出方法によって一概に同じとは言えません。そのため、ここではランキングは考慮しないでおきます。
ちなみに、勝率がどの程度で“強い選手”に仲間入りできるのでしょうか。例えばプロ野球だと、優勝する球団の勝率は毎年6割弱ほどです。つまり、「勝率6割以上」であれば強い選手として認定しても問題ないでしょう。2020年までのデータになりますが、以下は現在『WORLD PADEL TOUR』に出場している選手の勝率です。
- フェルナンド・ベラステギン:90%
- パブロ・リマ:86%
- ファン・マルティン・ディアス:79%
- サンヨ・ギテレス:78%
- マキシ・サンチェス:75%
- フランコ・ストゥパ: 68%
- アレ・ガラン:66%
- アグスティン・タピア:65%
- ファン・レブロン:60%
2022年の現在でも、WORLD PADEL TOUR TVで見る選手ばかりです。
ここで、一つ考えてみましょう。ポイントを取る確率(勝率)6割のA選手と、4割のB選手が対戦したとします(単純化したいのでペアで1人の選手と考えます)。これを非常に複雑な数式に当てはめると、A選手がゲームを取る確率は「0.73」で、B選手がゲームを取る確率は「0.26」です(パデルは4ポイント取ると1ゲーム、6ゲーム取ると1セットを取得でき、通常先に2セット取った方が勝利)。つまり、B選手がゲームを取れる確率は、4ゲームに1回という計算。この計算をさらに進めると、A選手が1セットマッチで勝てる可能性は「96.2%」で、3セットマッチとなると「99.7%」となります。
いつ頑張るのか
ポイント取得率が「60:40」で前述のような数字になるは、多くの方にとって意外かもしれません。そして、これくらいの差であれば「頑張ったら競れる」と思うのではないでしょうか。しかし、実際にはこれだけの差があると、B選手が勝てる可能性はほぼありません。
ただ、ここで見過ごしてはいけないのは、ゲーム(セット)数が短くなればなるほどB選手が勝てる可能性が、微々たるものながら上がるということ。 現在、パデルの国内ツアーでは「4ゲーム1セットマッチ」など短いゲーム数の公式戦も数多くあります。こういった短いゲーム数の試合を狙うと、もしかしたら番狂わせを起こせるかもしれません。
全日本などの大きな大会が近づくと、練習量の増える人がいます。もちろん、やらないよりやった方が良いでしょう。しかし残念ながら、実力(ポイント取得率)はそんな短期的では上がりません。私はよく、選手に「勝敗は試合前から決まっている」と伝えています。その真意は、「試合をやらなくても勝つことが“分かる”ところまで、普段の練習で自分を引き上げておこう」ということ。つまり、いくら試合しても実力に勝る者が勝ち、実力が劣る者が負けるということです。
数字が示している通り、ポイントを取る確率(実力)を1%上げるだけで、ゲームを取る確率が上がります。 相手も自分と同程度の練習を行っているのですから、一度に10%や20%も上げようとするのは無理があるでしょう。そして、試合中に頑張るのは当たり前です。そうではなく、極論ですが「試合中に頑張らなくても勝てるだけの実力」を、普段の練習で身につけておこうということ。 頑張るのは試合でも試合直前の練習でもなく、「普段の練習」なのです。
2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。