1980年代に人気を博した漫画『柔道部物語』に、縄登りが登場する。「引きつける力を強くするためにはどのようなトレーニング方法がよいか」と質問した生徒に、顧問指導者がそれを薦めたからだ。
柔道では、技をかけるときに相手の道着を掴んで自分に引きつけ、バランスを崩させる。そのときに使われるのは「引く」と「掴む」筋力なのだが、これらは腕立て伏せやベンチプレスなど「押す」動作の筋トレ種目では、あまり効果的に鍛えることができない。そこで、縄登りが有効なトレーニング方法として紹介されたわけである。
もちろん、縄登りは柔道に有効なだけではない。腕、背中、握力など、広範囲な筋力を満遍なく鍛えることができる。クロスフィットのジムは倉庫などを改造した建物が多いが、縄登りに必要な高さを確保することもその目的のひとつだ。
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脚を使うか、使わないか
縄登りには、大きく分けて2つの方法がある。脚を縄につけずに腕だけで登る方法と、腕と脚の両方を使う方法だ。当然ながら、前者の方が上半身に負荷が大きくかかり、その分だけ筋力を鍛えることにはより適している。一方、後者はより安全であるし、長い距離と多い反復回数をこなすことにも適している。
縄登りに脚を使うか使わないについては、面白い話がある。2010年のクロスフィット世界大会では、最終イベントに綱登りが含まれていた。それまでトップにいたリッチ・フローニング選手が、ここで失速したのだ。フローニング選手は子どもの頃から父親が自宅の納屋に縄を吊るしており、綱登りには慣れていた。しかし、その父親の教え「縄登りで脚を使うのは男らしくないから腕だけで登れ」を忠実に守っていたため、脚を使う方法を知らなかったのである。
その年のフローニング選手は縄登りでの失点が響き2位に終わったが、その翌年から当時は前人未踏だった世界大会4連覇を達成。ちなみに、2013年度の同大会では腕だけの綱登りが競技種目に加えられた。
縄登りにおける脚の正しい使い方
縄登りで脚を使う場合、その正しい方法は意外に知られていない。よくある間違いは、縄を脚に絡みつける、あるいはしがみつくことだ。転落への恐怖からくるものだが、これをやってしまうと下りるときに皮膚が縄で擦れ、ひどい擦り傷を負うことがある。実は筆者にも、クロスフィットを始めたばかりの頃にそうした痛い思いをした経験がある。
縄を脚に巻きつけるのではなく、両足で挟むのが正しい方法だ。縄を両足の外側に置き、片足で踏む。そして、縄を踏んだ足の裏から反対側の足の甲の上に通す。こうして縄を両足で挟むと、皮膚が擦れることはない。通常は、利き腕と同じ側の足を外側にするとやりやすい。
登るときは両腕を伸ばし、できるだけ高い位置で縄を掴む。そして両膝を曲げて、上とおなじ要領で縄を両足で挟む。あとは、膝を伸ばしながら縄を登っていき、膝が伸び切ったところでまた曲げる動作を繰り返す。ちょうど尺取虫が伸び縮みするように、ただし水平方向ではなく垂直方向に進んでいく。
下りるときは両足の形は崩さずに膝を伸ばし、だが縄を挟む強さを少しずつ緩めていく。すると、縄が滑車を走るような形でスムーズに下りることができる。スピードが速すぎると、火傷したり手の皮が剥けたりすることもあるので要注意だ。
縄登りはいったん登ってしまったら、いくら疲れても途中で縄から手を放すわけにはいかない。漫画『柔道部物語』では体育館の高い天井から縄が数本ぶら下がっていたが、そこまでの高さはなくても、地面に落ちたら怪我をすることには変わりはないからだ。その意味では、腕と脚を使う方法の方が安全性は高い。腕だけの縄登りは、あまり高くない場合に限る方がよいだろう。
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。