アメリカンフットボール(以下、アメフト)の全米プロリーグ(National Football League, 以下NFL)の2022-23年シーズン優勝チームを決める「スーパーボウル57」が、2023年2月13日(日本時間)にアリゾナ州グレンデールで開催されます。スーパーボウルは全米最大の、もはや国民的行事とも呼べるスポーツイベントです。北米4大プロスポーツと呼ばれるNFL(アメフト)、 NBA(バスケットボール)、 MLB(野球)、 NHL(アイスホッケー)の中でも群を抜いているだけではなく、オリンピックやワールドカップのような世界的なビッグイベントより、はるかに米国内の注目度は高いでしょう。

分かりやすい数字を挙げると、2022年に米国内で最もテレビ視聴者数が多かったスポーツイベントはスーパーボウル56で、その数値は約1億人でした(*1)。

*1. 2022 ratings wrap: Another dominant year for NFL.

それだけではなく、総視聴者数トップ30までをすべてNFLの試合が占めます。北京オリンピック9日目が第34位(約2249万人)、ワールドカップ決勝戦が36位(約2,232万人)にようやく顔を出します。NBAファイナルや MLBのワールドシリーズなどは約1,200~1,400万人で、トップ50位にすら入りません。

4大プロスポーツという呼び名は実情に合っておらず、北米には最大人気のNFLがあり、それ以外にも3つの大きなプロスポーツ組織があると言うべきかもしれません。まるで江戸将軍家と徳川御三家のように…という例えは、かえって分かりにくいでしょうか。

スーパーボウルが行われる日曜日は、特に「Super Bowl Sunday」と呼ばれます。その日は独立記念日と並んで、全米中で1 番多くビールが消費される日でもあるのです。翌日の月曜日が振替休日にならないのが不思議なくらいです。

目次

スーパーボウルの歴史

それほどまでに人気が高いスーパーボウルですが、実はその歴史はそれほど長くありません。第1回目が行われたのは1967年1月15日です。MLBワールドシリーズが始まったのは1903年、NBAファイナルが1947年、NHLスタンレー・カップに至っては1893年。そのため、スーパーボウルは比較的新しい新興イベントなのです。もちろん、日本の甲子園高校野球大会や箱根駅伝などよりもずっと若いイベントとなります。

スーパーボウルの開催地は中立地で、その場所は毎年変わります。第1回目のスーパーボウルは、ロサンゼルスのメモリアル・コロシアムで開催されました。それ以降、基本的にはカリフォルニア州やフロリダ州などの暖かい地域で開催されています。なぜなら、冬場に屋外で試合が行われるから。今年の開催地アリゾナ州グレンデールも、温暖な(夏はいささか暑すぎる)気候の土地です。例外的にニュージャージー州(2014年)、ミネアポリス州(2018年)などの寒冷地が開催地に選ばれることもありますが、そのときは会場がドーム施設であることが条件になります。

スーパーボウルは試合そのもの以外に、豪華なハーフタイムショーも有名です。しかし、初期の頃は必ずしもそうではありませんでした。出演するのは大学のマーチングバンドやダンスチームなどが多く、人々の注目度もさほど高なかったのです。言葉は良くありませんが、「長めのトイレ休憩時間」などと揶揄されることもありました。

ハーフタイムショーを現在のような人気コンテンツへと一変させたのは、1993年に登場したマイケル・ジャクソンです。それ以来、世界的な人気を誇るアーチストが続々とこのステージに出演するようになりました。ダイアナ・ロス、U2、ポール・マッカートニー、ローリング・ストーンズ、プリンス、ブルース・スプリングティーン、マドンナ、ビヨンセ、レディー・ガガなど、文字通り枚挙に暇がありません。今年の出演者はバルバドス出身の人気歌手、リアーナに決定しています。

スーパーボウルまでの長い道のり

NFLの2022-23レギュラーシーズンは9月の第2週目に始まり、18週間が過ぎた年明けの1月第2週目に終了しました。アメフトの試合は週1回が基本です。各チームはシーズン中に1週だけの休みが与えられ、全部で17試合を行いました。例外は、シーズン終盤の1戦で試合開始直後にある選手が心肺停止となったことを受けて中止された、バッファロー・ビルズとシンシナティ・ベンガルズです。

NFLは全米各地に32チームあり、AFCとNFCの2つのカンファレンスに分かれています。各カンファレンスの16チームはさらに東西南北の4地区に分かれ、つまり1地区に4チームです。レギュラーシーズンが終了した時点で各カンファレンス以下、それぞれの地区を優勝した4チーム、さらにそれ以外でレギュラーシーズンの勝率が高いワイルドカード枠の3チーム、計7チームずつがプレーオフに進出します。

プレーオフは、負けると敗退の勝ち抜きトーナメント方式で争われます。レギュラーシーズンでカンファレンス優勝を果たしたチームは、プレーオフ・トーナメントの1回戦が不戦勝となります。それ以外のチームは、カンファレンス優勝までに3試合を戦うことになります。

そうしてNFC、AFCそれぞれのプレーオフ・トーナメントを制したチーム同士が、スーパーボウルで激突するという流れです。プレーオフの第1ラウンドが開始した1月中旬からの1か月間は、全米中がスーパーボウルの組み合わせがどうなるのか、固唾をのんで見守ってきたと言っても過言ではありません。

スーパーボウル57の対戦カードと注目選手

1月29日(日本時間30日)、NFL 2022-23年シーズンのカンファレンス・チャンピオンシップ・ゲームが行われ、第57回目となるスーパーボウルの対戦カードが決まりました。AFCを制したカンザスシティ・チーフス、NFCを制したフィラデルフィア・イーグルスがスーパーボウル57で対戦します。

両チームとも、それぞれのカンファレンスでレギュラーシーズンも優勝しています。戦績も同じ14勝3敗。プレーオフでも同じく第1ラウンドを不戦勝した後での2連勝で勝ち上がってきたのですが、チーフスが2戦とも接戦を制してきた(27-20,23-20)のに対し、イーグルスは2戦とも大勝を挙げています(38-7, 31-7)。現在の勢いは、イーグルスがやや上かもしれません。

試合のカギを握るクォーターバック(QB)はチーフスがパトリック・マホームズ(27)、イーグルスがジェイレン・ハーツ(24)。2人ともテキサス出身の黒人という共通点があります。黒人のQB同士がスーパーボウルで相まみえるのは、史上初とのことです。

マホームズもハーツも、レギュラーシーズンではMVP最有力候補に挙げられる大活躍でチームを引っ張りました。マホームズは変幻自在のパスを操り、一方のハーツはラン攻撃を得意としており、そのプレイスタイルは好対照と言えるでしょう。

気がかりなのは、マホームズがプレーオフ初戦で足首を痛め、第2戦目では足を引き摺りながらのプレイだったこと。しかし、スーパーボウルまでの期間は2週間あります。万全の状態に回復するまで、時間は十分にあるでしょう。

カンザスシティとフィラデルフィアは、どちらも都市の規模からいえば巨大マーケットではありません。しかし、その分だけ熱烈な地元ファンが多いことでも知られています。ぜひ、熱い戦いを期待しましょう。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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