時間は誰にでも平等に流れ、誰でもカレンダー上では同じように齢をとる。しかし、すべての人々が同じように老いるわけではない。同じ誕生日に生まれた2人が40歳になったとき、ひとりはまだ30代にしか見えず、もうひとりは50代のように老けて見える…なんてこともある。単に見た目だけではなく、同年齢にもかかわらず体力が大きく異なることも珍しくない。30歳より元気な40歳もいれば、50歳より弱い40歳もいるだろう。時間で測られる年齢とは別に、生物学的な年齢というものが存在するのだ。

生物学的な加齢のスピードは、さまざまな要因に影響される。遺伝や社会環境など、自分では選ぶことができないものもある。しかし、もっとも重要なものは自身の生活習慣だ。運動不足や不健康な食事、あるいは過度の飲酒や喫煙など。そうした不適切なライフスタイルそのものが、加齢のプロセスを速めることは今さらここで述べるまでもない。

ミシガン大学の研究者らが最近発表した研究(*1)によると、筋肉の強さと加齢のスピードの間にも強い関連があることが分かった。筋力不足が加齢に与える影響は、タバコを吸う生活習慣と同程度であるかもしれないということだ。

*1. Study shows biological link between muscle weakness and acceleration in biological age.

1,274人の握力とDNA反応を解析

この研究は、1,274人の被験者の握力と生物学的な年齢との関連を、10年間の観察期間をかけて調べたものだ。握力はその人の持つ全身の筋力を示すバロメーターであり、生物学的な年齢はDNAメチル化と呼ばれる化学反応によって測られた。研究の結果、両者には密接な関係があることが証明されたという。結論をさらに手っ取り早く要約すると、握力が弱い人ほど老けやすいのだそうだ。

この研究を主導したマーク・ピーターソン医学博士は、ミシガン大学のプレスリリース(*2)に以下のコメントを発表している。

*2. Is muscle weakness the new smoking?

「私たちは筋肉の強さが寿命を占うこと、そして筋力の弱さが疾病や死亡を占うことを知っていました。しかし、今回の研究で初めて、筋力の弱さと生物学的な加齢との間に強い生物学的な関連があることを証明する事実を発見しました」

「この発見は生涯を通して筋力を維持することで多くの加齢によって引き起こされる病気を予防できるかもしれないことを示唆しています。例えば、私たちは喫煙習慣が疾病率や死亡率を高めることはずっと以前から知っています。筋力不足とは新たな喫煙と呼べるのかもしれないのです」

タバコが体に悪いことは誰でも知っている。喫煙は遺伝子を傷つける。どうやら筋力不足も、それと同様の作用を人間の身体に与えてしまうようなのだ。

そして、こうも言える。いつまでも実際の年齢より若いままでいたいと望むのであれば、それは筋トレを始めること(あるいは続けること)への大きなモチベーションになり得るはずだ。健康のための運動と言えば、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動を思い浮かべがちだろう。しかし、それにも増して、筋力が加齢のスピードを遅らせるうえで大きな役割を占めることが分かったからだ。

一つ注意するべきは、上の研究では握力が解析データに使用されたが、それはあくまでも全体的な筋力を予測する1要素に過ぎないこと。従って、ただハンドグリップを購入すればよいというものではなく、全身の筋肉を鍛えなくてはならない。筋力を増やすためには、定期的なトレーニングを行うのはもちろんのこと、日常生活において適切な栄養摂取と休息が不可欠であることも付記しておきたい。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。