1回だけ正しいフォームで行える最大挙上重量(1-rep Max)の85%で、バックスクワットとベンチプレスを6回で1セットとし、休憩を挟んで3セット繰り返す。このメニューを週3回、6週間続けるとどうなるか。もちろん、筋肉が強くなる。6週間後には、1-rep Maxの数値がどれだけ上がるか楽しみにできるだろう。
筋トレを適度な休息を挟んで繰り返すことで、筋力は確実に向上する。これは、もはや疑う人はいないであろう常識だ。ところが、そうした筋トレを「身体的に」行わなくても、その動作を行う自分の姿を脳内で想像するだけでも筋力は向上するという驚くべき発見を報告した論文(*1)が、西スコットランド大学の研究者らによって発表された。
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パンデミックでジムが閉鎖されたことを逆手に取った研究
研究のきっかけになったのは、新型コロナウイルスのパンデミックだった。世間の例に違わず、スコットランドのあるプロ・バスケットボール・チーム(Glasgow Rocks)もジムが閉鎖され、選手たちは自宅でのトレーニングを余儀なくされた。
ところが、このチームの首脳陣はユニークなトレーニング計画を立てた。まず、30人の選手たちを10人ずつの3グループに分ける。6週間のトレーニング期間中に週3回のセッションを行うことを全員に共通とし、1つのグループは最大筋力向上を狙ったトレーニングをイメージし、2番目のグループはパワー強化を狙ったトレーニングをイメージし、そして3番目のグループは何もイメージしないというものだ。それに加えて、すべてのグループが残りの週2日、短距離走を行う日とした。
最大筋力向上グループは1-rep Maxの85%を持ち上げることをイメージし、パワー強化グループは55~65%の負荷を素早く上下させる自分の姿を脳内でイメージ。選手たちは、もちろんパンデミック前から筋トレに取り組んでいたので、実際の動作と負荷を具体的にイメージすることができた。
6週間のイメージトレーニング期間が終了すると選手たちは実験室に集められ、バックスクワットとベンチプレスの1-rep Max、そしてパワーを測るために垂直跳びの再計測を実施。以下が、グループ毎の結果である。
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バックスクワット |
ベンチプレス |
垂直跳び |
最大筋力向上イメージ |
+ 9% |
+ 7% |
+0.2cm |
パワー強化イメージ |
+ 5% |
+2% |
+0.7cm |
イメージなし |
-3% |
-4% |
-1.9cm |
最大筋力向上を目指したグループは、イメージ通りに持ち上げられる重量が他グループより多く増加。そして、パワー強化を目指したグループは、イメージ通りにもっとも高くジャンプできるようになった。一方、イメージトレーニングを行わなかったグループは、当然のことではあるが最大筋力もパワーも減ってしまったという。
身体的なトレーニングをしなくても、イメージトレーニングによって筋肉に反応を促すことができる。しかも、そのイメージが詳細であるほど、狙った筋トレ効果をピンポイントで得られるということである。
軽いモノを持ち上げながら、重いモノをイメージする
類似した事例を報告した、別の研究もある。米国陸軍の研究機関(United States Army Research Laboratory)の研究者が主導して2022年12月に発表した論文(*2)でも、イメージトレーニングが筋トレ効果を高めると述べている。
研究によると、ごく軽い重量での筋トレ動作を行う際、現実より重い重量をイメージすることで、実際の筋トレ効果を上げることができるということだ。脳内イメージが詳細で明瞭であるほど、それが身体に及ぼす効果も大きくなると論文著者らは述べている。
どうやら筋肉を成長させるものは、身体的な刺激に限らないようである。時間の制約などでジムに行けない、あるいは故障や疲れのために重い重量を扱うことができない。そんな日でも、筋トレを行っている自分の姿を具体的にイメージするだけで、何かしらの効果を得られるようだ。
もっとも、普通の人間にとっては、経験していないことを具体的に想像することは非常に困難だろう。筋肉が軋み、重さにつぶれそうになり、息も絶え絶えになる。そんなきつい筋トレをイメージするには、やはりきつい筋トレを実際にやってみることがもっとも早道だと筆者は考える。そのうえで、何らかの事情で筋トレができないときの代替メニュー、あるいはプラスアルファの選択肢として、イメージトレーニングは有効なのではないだろうか。
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。