私は現在、自身の運営するクラブでランニングや陸上競技の指導に携わっています。過去には中学校の陸上競技部において、外部指導員としても活動していました。しかし、大学まで陸上経験こそあったものの、社会人になってからは競技と疎遠に。改めて指導という立場から関わることになったキッカケは我が子でした。

長男が小学生の頃、学校の先生から衝撃的な一言を受けます。それが、「朝礼で校長先生の話を立って聞いていることができず、少しすると左右にフラフラ動き始める」というもの。最初は「校長先生の話って子供には退屈だから…」とも思ったのですが、よく考えれば、自分の身体を長く支えていられないということかもしれません。筋力の問題なのか、それとも骨格の問題なのか。もともと長男は身体が細く、筋力も弱い方でした。運動能力もあまり高いとは言えず、かけっこやマラソン大会でも中の下くらい。別に運動が得意ではないことは構わない思っていたものの、成長期でもありますし心配です。

そこで「ちょっと運動を教えるか」と個別に時間を設け始めたのが、指導者として競技に携わり始めたキッカケ。運動を通じて体力や筋力が向上すれば、日常生活での姿勢維持などの改善にもつながると考えたのです。やがて「せっかくなら」と他の子にも教えるようになり、私自身がマラソンを始めたのもあって、色んな形で“教える”機会を得るようになりました。

そんな私が最初に考えたのが、シューズの見直しです。最初はちゃんと姿勢を保って身体を支えられるよう、クッション性やホールド性に優れたものが良いとも思いました。しかし、結果的に選んだのが、ほとんどクッション性のない『Vibram FiveFingers』(以下、ビブラム)です。

ただでさえ筋力が弱く、運動能力も高くない長男。恐らく「そんなシューズで運動させたら、怪我してしまうのではないか?」と思われる方は多いでしょう。確かに、そのリスクはゼロとは言えません。クッション性が低いということは、ジャンプしたり走ったりした際に地面から受ける衝撃が、それだけ大きくなります。しかし、それは運動のやり方次第。それ以上に私は、クッションがないからこそ主に以下4つのメリットがあると考えました。

  1. より大きな衝撃も受け止められるだけの筋力を養える(筋力アップ)
  2. 足指まで使ってしっかり身体を支えられるようになる(バランス力アップ)
  3. 骨格の歪みが整って正しい姿勢が維持できるようになる(姿勢改善)
  4. いつもと違う裸足に近い足裏の感覚で運動が楽しくなる(マインド)

最初からビブラムで思いっきり運動すれば、先ほど述べたように怪我する可能性があります。ですから、最初は普段履きとして使用。ちょっとしたお出かけはもちろん、山に連れて行くなど色んなシーンで履いてもらいました。ふかふかの地面は、特にビブラムで歩くのが楽しかったようです。

やがて少しずつ走ったり、トランポリンを飛んだりと運動を開始。他の子も含めて“教える”ようになったのは、この頃です。筋力やバランス能力が発達したのか、学校の先生からも「以前よりフラつかず、ちゃんと立っていられるようになった」との言葉も。そして小学校のマラソン大会では、6年生になると10位以内に入るようになっていました。かけっこなど短距離は苦手なようですが、長距離は得意に。数分すらまっすぐ立ち続けていられなかったのが、運動能力の向上にもつながったようです。

そんな長男は中学校で陸上競技部に入り、大会では賞状を何枚も頂きました。そして現在、長男は高校に進学。引き続き陸上競技部で長距離選手として活動しています。今でもゆっくりしたペースでのジョギング、そして森で走る際にはビブラムを愛用。ちなみに我が家は6人家族ですが、長男だけでなく家族全員が履いています。

運動が苦手だったり筋力が弱かったり。こうした悩みを抱いているのは、子どもだけではないでしょう。そんな人こそ、クッションに守ってもらうのではなく、まずは「脚を鍛える」ことを重視してシューズを選んでみると良いかもしれません。ちなみに、以前『陸王』というドラマがありましたが、ここで取り上げられている“足袋シューズ”も、ビブラムと同じようにクッションに頼らない構造。原作の本もありますので、ご興味のある方はぜひ見てみてください。

▼参考
Barefootinc Japan(Vibram FiveFingers)
ドラマ『陸王』

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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