マラソンをはじめとしたスポーツの大会で、ランナーたちの膝や足首、ふくらはぎなどに貼ってある、カラフルなテープを見たことがある人は多いだろう。あるいは読者の中に、愛用しているランナーがいるかもしれない。これは「キネシオ・テープ」「キネシオロジー・テープ」あるいは「KTテープ」と呼ばれる、伸び縮みして接着性も高い種類のテープのことだ。ここでは、キネシオ・テープに用語を統一する。

テーピング自体は、ずっと以前からスポーツ現場で用いられてきた伝統的な手法である。キネシオ・テープが従来のテープともっとも大きく異なる点は、「巻く」のではなく「貼る」ということだろう。キネシオ・テープには故障を予防する、痛みを抑える、または回復を速めるなど、さまざまな効果が謳われている。しかし、果たしてそれらに科学的な根拠はあるのだろうか。

目次

キネシオ・テープの発明者は日本人

キネシオ・テープは1970年代に、アメリカ在住の日本人カイロプラクターだった加瀬建造氏によって発明された。幼い頃から病弱だった加瀬氏はシカゴでカイロプラクティックの学位を取得した後、伝統的な手法と現代医学的なアプローチとの融合を目指した治療経験を重ねたという。特に高齢の患者には従来の固いテープでは肌荒れや痛みなどのさまざまな不都合が生じやすいことを目の当たりにし、キネシオ・テープのコンセプトを思いつくに到ったということだ。

・参考:Kinesio Tape With Wisdom

もともとは医療目的に開発されたキネシオ・テープ。これが、現在ではスポーツ界でも大きな注目を集めるようになったきっかけは、2008年の北京オリンピックである。参加した58か国の選手にキネシオ・テープが無料で配布され、それを使用した選手の姿をテレビで見た多くの人たちが興味をかき立てられたのだ。

キネシオ・テープの効果を調べた研究

キネシオ・テープの知名度が上がると、それに比例するかのように、キネシオ・テープの効果に対して疑問を抱く科学者も現れるようになる。そうした面からの研究が、特に2010年代前半に数多く発表された。以下にご紹介するレビュー論文(*1)もその一例である。

*1. Kinesio taping in treatment and prevention of sports injuries.

研究を主導したのは、ニュージーランド・オークランド工科大学のショーン・ウィリアムズ氏ら研究チーム。キネシオ・テープがスポーツ障害に対して治療及び予防効果があるかを調べることを目的として、スポーツ医療関係の研究論文データベースから97の論文を抽出し、さらに統合的な解析を試みた。その結論を箇条書きに要約すると、以下のようになる。

  • キネシオ・テープが他の種類のテープよりスポーツ障害を予防するという科学的根拠はない。
  • キネシオ・テープが故障した箇所を保護し、可動域を確保することについては、他の種類のテープより優れている可能性がある。
  • とくにスポーツに伴う外傷の治療や回復に関して、キネシオ・テープはアスリートにとって有益であったとする実際のケースは多い。

筆者の考察

効くかどうかという判断ではなく、科学的根拠のある・なしに結論を留めているところは、いかにも学術論文らしいと言えるだろう。この研究では触れられていないが、そもそもテーピング自体に心理的効果を指摘する声も以前からある。痛みのある個所、あるいは痛みが出るかもしれない箇所にテーピングを施すことで、あたかもプラセボ(偽薬)のような効果が生じるという説だ。

そうかもしれないし、そうではないかもしれない。詮索の必要もないかもしれない。科学的根拠があろうとなかろうと、痛みが消えたような気持ちになれるか、あるいは安心感が得られるのであれば、アスリートのパフォーマンスが高まるだろうことには疑いの余地はないからだ。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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