肩周りの筋力と柔軟性は、多くのスポーツで重要になる。例えば野球のボールを投げる、テニスのサーブを打つ、水泳のクロールで水を掻く、重量挙げのバーベルを頭上に挙げるなど、さまざまな動作で使われるからだ。この個所の筋肉の強さはそうした競技におけるパワーに直結し、可動域の広さはフォームに影響する。

そして、肩周りは故障が発生しやすい箇所でもある。筋力不足が原因になることもバランスの悪さが原因になることがあるが、競技の特性から肩を使い過ぎになりやすいスポーツが多いのだ。長期間に渡って腱や靱帯にストレスが蓄積されると、競技パフォーマンスが低下するばかりか、そのスポーツそのものを続けること自体が難しくなる。

目次

ウェイトではなくレジスタンス・バンドを推奨する理由

レジスタンス・バンドは抵抗強度を色で識別することが多い

故障を予防するためには、その周辺の筋肉を鍛えることが有効だ。肩周りを鍛えるエクササイズとして、フリーウェイトならショルダー・プレスなどの動作、マシンを用いる場合はラット・プル・ダウンなどが広く行われている。ウェイトを用いた、いわゆる筋トレの効果は数多くの研究で証明済みである。

その一方で、こうした重い重量を扱うタイプのトレーニングは、ターゲットとする筋肉に加えて関節にも過大な負荷がかかってしまい、かえって故障を誘発する可能性もある。そのことに警鐘を鳴らし、代わりにレジスタンス・バンドを用いるエクササイズを推奨したのが、アメリカン・フットボール史上最高選手と呼ばれ、昨シーズン終了後に2度目の現役引退を発表したトム・ブレイディだ。

ブレイディは2017年に『The TB12 Method: How to Achieve a Lifetime of Sustained Peak Performance』というタイトルの書籍を出版した。そこでブレイディは、自身が実践するライフスタイルとトレーニング方法を詳しく紹介し、ウェイトではなくレジスタンス・バンドを推奨する理由を以下のように述べている(pg.121)。

「私が行っていて、そして皆に推奨するエクササイズのおよそ90%はレジスタンス・バンドを使用するものです。レジスタンス・バンドは負荷の調整と多様な動作を選ぶことが容易で、かつトレーニング効率を最大化するという意味で、ウェイトよりはるかに機能的なトレーニング方法です。それはレジスタンス・バンドが大きな可動域の広い動作を可能にするからなのです」(筆者意訳)

ブレイディの唱える説はスポーツ界に衝撃を与えたが、主流になったとはまだ言い難い。今でもウェイト・トレーニングを最上、あるいは唯一の方法と考えるアスリートや指導者の方が数としては多いだろう。しかし、徐々にレジスタンス・バンドを用いたエクササイズを取り入れる動きが、さまざまなスポーツ現場で見られるようにはなってきている。

レジスタンス・バンドを使った肩回りエクササイズの例

具体的に、レジスタンス・バンドによるエクササイズをご紹介しよう。以下はいずれも、それぞれ10回2~3セット程度を目安とする。最初は抵抗の小さいバンドを使い、徐々に負荷を高めていく。無理は禁物だ。

パス・スルー

  1. バンドを肩幅の2倍程度に広く握る
  2. 両腕を伸ばしたままで、頭上にバンドを通過させ、体の前後に回す。

プル・アパート

  1. 両腕を前方にまっすぐ伸ばす。
  2. 肘を曲げずに、バンドを引っ張り、左右へ開く。

ショルダー・プレス

  1. 両手、両足を肩幅に広げる。足でバンドの片側を踏み、反対側を握る。
  2. 頭上へ肘を伸ばし、バンドを引っ張る。

フロント・レイズ

  1. 両手、両足を肩幅に広げる。足でバンドの片側を踏み、反対側を握る。
  2. 肘を伸ばしたまま、両腕を前方へ上げる。

ご紹介したエクササイズは数多くある中の一例に過ぎないうえ、動作自体は目新しいものではない。バーベルやダンベル、あるいはケーブルを使って、同じ動作を行ったことがある人も多いだろう。そうした動作にレジスタンス・バンドを用いることで、筋肉の炎症を最小化できるとブレイディは主張する。トレーニングの目的は最大筋力ではなく、最適な筋力を得ることにあるとも述べている。

レジスタンス・バンドを使ったエクササイズに、ブレイディが述べるような効果が本当にあるかどうかは筆者もまだ判断できない。しかし、試してみる価値はありそうだし、それをすることによって生じるマイナス要素は思いつかない。ウェイト・トレーニングから完全に置き換えるのではなく、ウォームアップに用いるというやり方も考えられるのではないだろうか。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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