「継続は力なり」
「痛くても走り続ける」
「無理してでも続けることが大事」
皆さんも、こういった意味合いの言葉を聞いてきたことは多々あるのではないでしょうか。特に日本人は続けることを重んじ、美徳とするところがあります。それは決して間違いではありませんし、続けることでしか得られないことも沢山あります。継続できることは長所です。しかし、トライアスリートの間ではこんな言葉が伝えられています。
「辞めることも勇気」
これは、過酷なトライアスロンというスポーツだからこそ生まれた考え方かもしれません。超長距離を1日で行うという性質上、体のコンディションが少しでも悪いと、完走すらできなくなってしまうのがトライアスロンです。そのような状態で無理をするくらいなら、次に向けて備える時間を少しでも長くとった方がいい。そんな、トライアスリートに伝わる「教え」みたいなものです。日常生活でも必要になることがあるかもしれない、この「辞める勇気」という考え方についてご紹介します。
目次
「損して得取る」の考え方
少し聞こえの良くない言い方になってしまうかもしれませんが、この「辞める勇気」は、「次の挑戦に向けて今は諦める」という決断を聞こえが良い感じに言い換えたものです。そもそも、なぜトライアスリートにこのような言葉が伝わっているか。これは、トライアスロンは無理して続けることで、熱中症や怪我、事故などの危険を呼び寄せる可能性のあるスポーツであるためです。そのようなことが起これば、目標・目的を達成できないだけでなく、最悪の場合には二度とトライアスロンをできない状態になってしまうことだって十分ありえます。
そのような大損をする可能性があるのなら、損が小さくて済むうちに早々に切り上げて、またコンディションを整えて来ればいいじゃないか。そんな考え方が、トライアスリートには教訓として言い伝えられています。
その「無理」は、ちゃんと目的・目標に向かっている「道」なのか?
トライアロンはレース1回の比重が非常に重くなる競技です。そのため、どうしても多少の「無理」は必要になってきます。レーススタートに向けても、非常に長期のトレーニングと入念な準備が必要です。
しかし、だからこそ「せっかくここまでやってきたから」「これだけ時間を割いたのに」「もったいない」という思考が、判断を鈍らせてしまいます。無理は無理でも、次に繋げる見込みのある無理であれば、「今回の目標達成はやめた」という意味でそれは「辞める勇気」になるのかもしれません。一方、そうではない場合、それは「続けること」が目的にすり替わってしまっている可能性があります。
もっとも大切なのは「目的に到達すること」です。だからこそ、そこに向けての手段としての「続けること」は必要です。しかし、そうではない「せっかくここまでやってきたから」という思いからくる継続は、あまり良くありません。常に今やっていることが、上記のどちらに該当するのか向き合っていく必要がありますね。
常に向き合うべき「甘えではないか」という思考
「辞める」という判断をした際、必ず頭に浮かぶのは「これは甘えではないのか?」という考えだと思います。実際、私も今まで怪我や体調不良などで練習やレースを辞める決断をした後は、いつも「これは甘えではないのか?」「もっとやれたのではないか?」という風に自分を責めていました。これも、辞めるという判断を鈍らせる要因の一つかもしれません。
実際に、辞める決断が私の甘えであったこともありました。では、これの解決方法は何なのか?私は、この問題に答えは無いと思っています。
その「辞める」という判断が甘えであったかどうかは、それによって引き出される結果が示すものです。つまり、辞めたその瞬間には判断がつかない問題になります。辞めた決断を自分の甘えにしてしまうのか、辞める勇気によるものにするのかは、その後の自分自身の行動にかかっています。
時には続けることの美徳を放棄してでも、辞める決断をすることが大切なことがあります。「せっかくここまでやってきたから」「もったいない」という気持ちが浮かんでくるのは当然のことでしょう。私もそう思います。
しかし、そういった目の前の出来事だけにとらわれず、時にはそれまでのすべてを切り捨ててでも辞める決断を下すことが、結果的に目的に到達することが出来る選択になるかもしれません。
これが、トライアスリートに伝わっている「辞める勇気」の内容です。トライアスロンにおいても、それ以外のことについても、一番困るのは「目的・目標に到達することができなくなること」だと思います。今している無理は、本当に目的・目標に向けての「道」になっているのかどうか?そういうことを、常に自分に問いかけられる「辞める勇気」という考え方。皆さんも何かに挑戦するときは、頭の片隅に置いてみてはいかがでしょうか。
1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。
<主な戦績>
2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝
2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝
2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位
2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位
2021年「日本トライアスロン選手権」4位