米国カリフォルニア州では、高校野球の公式シーズンが2月に始まり5月に終わる。最初の約10週間にリーグ戦を行い、上位半分くらいのチームがプレーオフのトーナメントに進出する仕組みだ。5月5日、私がコーチの一人として関わっているラグナヒルズ高校は2年振りにプレーオフ進出を果たしたものの、トーナメント1回戦で敗れた。今シーズンは終了し、最終学年の生徒にとっては高校最後の試合となった。
私自身は、コーチになってから4年目のシーズンだった。アメリカの高校は4年制なので、1年目に新入生として入部してきた生徒たちが、もうすぐ卒業していくことになる。
目次
平均的なカリフォルニア州の高校野球チーム
ラグナヒルズ高校の生徒数は約1,500人。この地域ではやや小規模の公立高校だ。決して野球の強豪校ではないが、極端に弱いというわけでもない。カリフォルニア州の高校スポーツを統括する組織(CIF – California Interscholastic Federation)は、州内すべての高校野球チームを過去2年間の戦績によって7つのディビジョンに振り分けている。ラグナヒルズ高校が今年戦ったのは、ちょうど真ん中にあたる第4ディビジョンだ。その中でリーグ戦での勝率が約6割だったため、州内ではごく平均的なレベルだと言ってよいだろう。それでも、あえて我がチームの特徴を探すとすれば、選手それぞれの成長曲線が他校より高いカーブを描くことだと考えている。
アメリカの高校スポーツが大抵そうであるように、カリフォルニア州内の高校野球も1校ごとに、競技レベルによって3つのチームに分かれる。1軍チームにあたる“Varsity” 、2軍チームにあたる“Junior Varsity”、そして3軍チームにあたる“Frosh”だ。対外試合も、そのレベルごとのチーム同士が対戦する。
ラグナヒルズ高校はいつもFroshチーム(3軍)が極端に弱く、勝率が1割を下回ることも珍しくない。しかし、Junior Varsityチーム(2軍)になると少しずつ勝ち数が増え、今年はちょうど勝率5割でレギュラーシーズンを終えた。そして、前述したようにVarsityチーム(1軍)は上位半分以上の位置にまで上がった。
少人数チームであることのメリット
他校と比較して、我々がとくに猛練習をしているというわけではない。シーズン中は週に2~3試合が組まれているので、練習は週に3~4回だし、1回の練習が2時間を越えることは滅多にない。練習内容もごく普通だ。
そもそも、前述したCIFの規則ではすべての高校スポーツで1日あたりの練習時間は4時間以下、週あたりの練習時間は合計で18時間以下にすることが定められているのだ。加えて、日曜日にはすべてのスポーツ活動が禁止されている。だから、練習の内容や質はともかく、量はどの高校も同じようなものにならざるを得ない。
日本の高校野球に比べると、格段に少ない練習量なのではないだろうか。しかし、試合数は多い。レギュラーシーズンの公式リーグ戦だけでも20試合以上あるし、シーズンオフの練習試合を含めたら年間50試合は越えるだろう。プレーオフのトーナメントを除けば、勝っても負けても試合数は変わらない。
ラグナヒルズ高校は学校としての規模が小さいうえに、野球チームに入ってくる人数も少ない。選抜のためのトライアウトをせずに希望者は全員受け入れているのだが、それでもいつも10~12人程度で各レベルのチームを編成することになる。言うまでもないことだが、野球の先発メンバーは9人、指名打者制(DH)を使うと10人だ。つまり、我が校の野球チームには、補欠というものが存在しないも同然である。
他校の事情はそうではないことが多い。トライアウトで人数を絞っていても、レベルごとのチームに20人以上の選手が登録されていることが珍しくない。結果として、同じ試合数を行っても、選手ひとりひとりの出場機会が大きく異なってくる。そのため、人数ギリギリの我が校は、ほぼ全員が全イニングに出場することができるのだ。
年間50試合だとすれば、4年間で200試合になる。それだけの試合にフル出場するか、あるいは控えでベンチを温めるかでは、積み重なる経験の差は大きくなるはずだ。素質のある選手を集めているわけでもなく、とくにチーム全体の練習量が多いわけでもない。そんな我が校がある程度のレベルまでには強くなれるのは、そのためだと思っている。
技術の習得に反復練習は不可欠であるが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、試合経験を積むことは競技レベルを高めるためには大切なのではないだろうか。何より、練習よりは試合の方が断然楽しいはず。スポーツの種類にもよるが、少なくとも野球は本来ゲームなのだから。
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。