今年も日本の夏は暑いですね。この時期にシーズンが本番となる、いわゆる「夏のスポーツ」関係者の皆さまには、ぜひとも熱中症対策、脱水症状対策を徹底していただきたいです。この記事を執筆している今も、「熱中症で〇〇人運ばれた」というニュースが耳に飛び込んできました。何でも今年は、エルニーニョ現象とやらで世界的に酷暑なのだとか。

一般的に熱中症対策といえば、「水を飲むこと」を実践されている方が多いかと思います。体温の上昇により人体は発汗し、汗が乾く際の気化熱で体を冷やそうとします。汗には水分だけでなく電解質が含まれており、この電解質が無いと水を飲んでも人体は水分を吸収できません。そのため、スポーツドリンクや塩飴といったミネラルも、水と一緒に補給してくださいとアナウンスされているわけです。

トライアスロンも、この暑い時期が一年のうちでもっとも、レースとトレーニングの両面から重要な時期になっています。そんな私たちが、熱中症対策としてここ数年で言われることが増えたのが、「頭から水をかぶること」です。飲むだけでなく被る。熱中症対策として重要なので、実際に私たちがやっていることを少し解説させていただきます。

目次

水温<体表面温度。水をかぶることで暑さを和らげる

水をかぶると気持ちよさを感じるのは、恐らく皆さんもお分かりいただけるのではないでしょうか。かぶる水の温度が低ければ、それだけ冷たさを強く感じるもの。それは、体の表面(皮膚)の温度よりも水の温度が低いからです。だからこそ、人は「冷たさ」を感じます。

体表面温度の上昇は、熱中症発症の主な原因のひとつです。そのため、水を被ることで熱された皮膚を冷ます必要があります。

ここで、車のボンネットをイメージしてみてください。興味のある方は夏の暑い日、炎天下に駐車しておいた車のボンネットを触ってみても良いでしょう。ただし、暑くて火傷してしまう可能性があるので、くれぐれもご注意を。ボンネットで目玉焼きを焼く動画などよく見ますが、それくらい熱くなっています。

ボンネットが鉄であることもそうですが、直射日光を浴び続けると、物は気温よりも高い温度を持つことがあります。これは人間も同じで、直射日光を浴び続けると、体表面の温度はどんどん上がっていきます。そして、体表面温度が上がると深部体温(体の中の温度。体温計とかで図る部分)の逃げ場がなくなり、どんどん上昇していくのです。

一般的に、深部体温が37.5度以上で危険、39.0度以上で深刻な熱中症であると言われます。そうならないためにも、熱された鉄を冷ますときのように外側から水をかけて肌を冷まして、体温の逃げ道を作ってあげる必要があります。

汗のかわりに気化熱を発生させる

もう一つ水をかぶる目的が、汗の代わりの役目を水に果たしてもらおうというものです。そもそも、人体が汗をかくのはなぜなのか。これは、皮膚に付着した汗(水)が蒸発する際、気化熱によって周囲の温度を奪っていく(=下げていく)ため、それによって体温を下げようと汗をかきます(もちろん他にも理由はあります)。

しかし、人がかく汗の量には限界があります。昨今の酷暑下では、とても人一人がかく汗の量では対応できないレベルになっています。そこで、外部から水をかけてあげることによって、体内の水分を消費しなくても気化熱が発生する状況を作ってあげることが有効になってきます。

さらに、汗には水分以外にも、ミネラルやタンパク質といった人体に必要な栄養素も含まれています。発汗するということは、そういった栄養素を失ってしまうことにもなるので、栄養不足や体力の低下につながる恐れもあるのです。もしかしたら、夏バテなんかはこういうところにも関わってきているのかもしれません。とにかく、体内に蓄えている限りあるリソースを、体温低下のために大幅に割いてしまうことのないよう、水を被って体表面を濡らすことは重要になってきます。

しかし、今や日本は地球上でも他に類を見ないほどの高温多湿。仮に水をかぶったとしても、蒸発できる水の量なんてたかが知れています。しかし、それでも被ることは重要です。気化熱でなく、水の温度によって体表温度を下げるだけでも、熱中症のリスクはかなり下がるでしょう。

一番は屋外での活動時間を短くすること

ここまで、水をかぶることによる熱中症対策についてご紹介しました。ただし、一番の熱中症対策は、屋外での活動時間を可能な限り絞るということでしょう。もちろん、完全に0にしろとは言いません。それはそれで、暑さへの耐性が体につかず、また別の形での熱中症のリスクになります。適度な運動。暑さに対してもそれは重要です。屋外での活動時間は必要最小限に抑え、かつ外に出る前に頭から水をかぶって、びしょびしょに濡れた状態で活動を開始するくらいがいいのかもしれません。それくらい対策しないといけないくらい、今の日本は酷暑です。

以前、日本で6月にレースに出たことのある選手とメキシコのレースで再会し、話したことがあります。その際に言われたのが、以下のような話でした。

「ここ(メキシコ)も暑い(気温35度前後)が、濡れればすぐに乾いて涼しくなる。風も乾いていて気持ちいい。日陰に逃げれば体温は下がる。でも、日本は違う。濡れても風が吹いても日陰に逃げても体温が下がることがない。むしろ上がっていく。日本で夏にスポーツするのは最高にクレイジーだよ。」

ちなみに、彼は5大陸すべてでトライアスロンのレースに出たことがある選手でした。私たちは、そんな日本でスポーツをしているのです。暑さに関しては世界に引けを取らないことを誇りつつ、しっかりと熱中症対策をして夏を乗り切りたいですね。

By 古山 大 (ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> 2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝 2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝 2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位 2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位 2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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