BMI (Body Mass Index) という指数は、肥満度や健康度の測定に広く使われている。「体重(kg)/身長(m)の2乗」 という計算式で得られる数値で、その人が痩せすぎである、あるいは太り過ぎであるといった判定するものだ。世界保健機関(WHO)では、BMI数値と健康状態の関連を以下のように定義している(*1)。

BMI指数

健康状態

18.5未満

低体重

18.5–24.9

標準

25.0–29.9

軽度の肥満

30.0–34.9

肥満(1度)

35.0–39.9

肥満(2度)

40以上

肥満(3度)

*1. A healthy lifestyle – WHO recommendations

例えば、日本政府統計ポータルサイトによると日本人30代男性の平均体重は70.0kg、平均身長は1.715mである(*2)ため、そこから導かれるBMI指数は23.8となる。やや高めではあるが、WHOが定める「標準」範囲に収まる数値だ。

*2. 国民健康・栄養調査

これがアメリカの話になると、疾病予防管理センター(CDC)のデータ(*3)では20歳以上男性の平均体重は90.6kg、平均身長は1.752mとある。すると、BMI指数は「軽度の肥満」上限ギリギリの「肥満(1度)」に近い29.5だ。肥満と疾病リスクや死亡率には強い関連性があることは多くの研究で明らかになっており、アメリカで肥満が大きな社会問題であると言われることも頷ける。

*3. Body Measurements

目次

大谷翔平選手は肥満型?

こうして一般人を基準にし、健康状態の傾向を把握するのにBMIは便利だ。しかし、アスリートの体型に当てはめると、少々おかしな話になることがある。同じ身長・体重でも計算要素に体脂肪や筋肉の量が含まれていないため、特に筋肉質のアスリートは、BMI指数が見た目より高くなる傾向があるのだ。

一例として、MLBのロサンゼルス・エンゼルスで活躍する大谷翔平選手を挙げてみよう。MLB公式サイトによると、大谷選手は体重95.3kg、身長1.93m である(*4)。この数字が正確であれば、大谷選手のBMI指数は25.6 になり、WHOが定める「軽度の肥満」に入ってしまうのだ。

*4. angels.com Shohei Ohtani #17

大谷選手を見て「太り気味だ」と感じる野球ファンは、恐らくいないだろう。しかし、体重と身長の数値だけで判定すると、そうなってしまうのである。

スポーツの特性によって異なる最適のBMI

同じように、いくつかのスポーツで有名なアスリートたちのBMIが公表されたデータから算出してみると、以下のようになる。いずれも、それぞれの競技で史上最高だったり、超一流だったりと呼ばれる選手たちだ。

スポーツ

選手

体重(kg

身長(m

BMI

WHO判定

マラソン

エリウド・キプチョゲ

52

1.67

18.6

標準(下限ギリギリ)

陸上短距離走

ウサイン・ボルト

94

1.95

24.7

標準(上限ギリギリ)

サッカー

リオネル・メッシ

72

1.72

24.3

標準(上限ギリギリ)

アメフト

トム・ブレイディ

102

1.93

27.4

軽度の肥満

バスケットボール

マイケル・ジョーダン

98

1.98

25

軽度の肥満

テニス

ロジャー・フェデラー

85

1.85

24.8

標準(上限ギリギリ)

競泳

マイケル・フェルプス

88

1.93

23.6

標準

フィギュアスケート

羽生結弦

57

1.72

19.3

標準(下限ギリギリ)

体操

内村航平

55

1.62

21

標準

大相撲

白鵬

155

1.92

42

肥満(3度)

一般的に、瞬発力を求められるパワー系アスリートは筋肉量が多くなるため、BMIの数値は高くなる。一方で、耐久系アスリートの場合は逆の傾向があるようだ。

同じスポーツであっても、ポジションやプレイスタイルによって、高いパフォーマンスを発揮するために最適なBMIは異なる。体重が重いと有利になることもあれば、体重が軽いほど有利に働くケースもあるからだ。

体重別のスポーツには減量がつきものなので、同じアスリートでも選んだ階級によってその時点でのBMI数値は変化する。例えば、フィリピンの英雄と呼ばれるボクシングのマニー・パッキャオ選手は、フライ級(48.988~50.802kg)からスーパーウェルター級(66.678~69.853kg)までの6階級で世界チャンピオンベルトを獲得した。これを1.66mの身長に当てはめると、BMI指数は18.4 (低体重)から25.3(軽度の肥満)まで増えたことになる。

通常、成人すると身長は大きく変わらないため、体重の増減がBMI指数に直接影響する。しかし、仮に同じ身長と同じ体重(同じBMI指数)のアスリートが並んでいても、ひとりは痩せて見えて、ひとりは太って見えることもあり得るだろう。同じ体積なら、脂肪より筋肉の方が重いとはよく言われることだ。

BMIは健康状態を測るための分かりやすい指標だが、スポーツのパフォーマンスを最適化するための体型を探る目的には向いていないようだ。それよりは、むしろ体脂肪率や筋肉量に着目するべきではないだろうか。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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