スポーツクラブや部活動などで、指導者から動きについて「もっと力を抜いて」と言われたことがある方は多いのではないでしょうか。私自身もトライアスロンを始めた9歳の頃から、常に言われ続けてきた言葉です。「力み過ぎ」「もっとリラックスして」「脱力」など。これまで多くの方から指導を受けてきましたが、ほぼすべての指導者にこのようなアドバイスを頂きました。

「脱力」という言葉を辞書で調べると、『体から力がぬけること。力をぬくこと。』(広辞苑より)という説明がされています。体を動かす、特にスポーツとなれば力を発揮することが必要。それなのに、力を抜くとはこれいかに…ということなのですが、長い間スポーツをやってきて感じるのは、やはりスポーツには脱力が重要ということです。その証拠にトップ選手の動きを見ると、とても全力を出しているようには見えないくらい、楽そうにプレイしていることがあります。今回は私が今までトライアスロンを通して感じてきた、「スポーツでいうところの脱力」についてご説明します。

目次

なぜ脱力できていた方が良いのか

そもそも、なぜ脱力した動きができた方が良いのか。正直、最初は私も疑問でした。たとえ力んでいても、動きができればパフォーマンス上は影響ないのではないかと考えていましたが、どうやらそんなことはないようです。

結論から言うと、リラックスして動いて見えるトップ選手も、しっかりと出力のために力んでいます。しかし、トップ選手達はその出力と脱力の切り替えが上手く、力のいらない部分では脱力をしているので、結果的に動き全体がリラックスして見えるのです。また、筋肉は緊張した状態からさらに緊張させて力を発揮しようとするより、弛緩した状態から一気に緊張させて力を発揮しようとする方が大きな力を出せます。そういう側面から見ても、脱力して動くと言うことは、スポーツで高いパフォーマンスを発揮するうえで重要になってくるようです。

そもそも力んでいる状態とは?

水泳の練習で、私が力みについて注意を受けたときと、リラックスできているとコメントされたときの動画を見比べたことがあります。確かに、指摘を受けたときの方が全体的に動きは硬く、「脱力できていない」印象を受けました。実際、タイムも遅かったです。

では、この2つの動画の違いは何か?私の意識の中では、リラックスできているとコメントされたときは、腕のストロークに力を割かないようにしていました。要するに、加速要因になる水を掴んで後ろまで持っていく動作以外では、腕を動かすことに意識を向けなかったのです。一方、力んでいると指摘を受けたときは、推進力に関係しない部分での腕のストロークにも意識を向け、力を入れて動かしていました。

人間の体は大抵の場合、どこかの筋肉が収縮(力を入れる)して関節が曲がると、どこかの筋肉が伸展(引き伸ばされて)して釣り合いが取れるようになっています。腕を曲げると力瘤がボコっと出てくるのは上腕二頭筋が収縮しているからであり、その代わりに裏側に当たる上腕三頭筋は伸展して、ゴムの様に元に戻る力で腕を裏側から引っ張っています。そうすることで関節を固定して動き辛くし、関節の脱落を防ぎながらより大きな力が伝わるようにしているわけです。つまり、私たちが見て「力んでいる」と思う状態は、関節を曲げる(体を動かす)ために出力をして、関節を固定している状態ということになります。

必要な部分に必要なタイミングだけ力を入れる

力んでいる状態というものが分かったところで、1つ疑問が生まれるかもしれません。

「脱力が重要なのは分かったけれど、力まないと、そもそもスポーツに必要な力を発揮できないのではないか?」

まさにその通り。私もトライアスロンを始めてから20年近く、その矛盾に苦しめられてきました。しかし、試行錯誤を繰り返したりトップ選手の動きを観察したりしていく中で、「リラックスして見えても脱力だけというわけではない」「しっかりと力を出すところはだしている」ということが分かってきました。動きがリラックスして見えるのは力を抜いているタイミングがあるからであり、決して力を入れていないわけではなかったのです。

では、力を抜くタイミングとはいつなのか?これは競技ごとに異なると思いますが、例えばテニスであればラケットを振りかぶるとき、ランニングであれば両足が地面から離れているときなど。これらをまとめて表すとしたら、「必要な部分に必要なタイミングだけ力を入れている」という言い方が正しいでしょうか。直接、競技パフォーマンスに関わらないタイミングを正確に見極めて、出力と脱力を切り替えられているからこそ、「脱力して動けている」という見え方がするのかもしれません。

何か動作するためには、筋肉に力を入れる必要があります。しかし、力は入れっぱなしだと次第に弱まっていってしまい、効率も悪くなるものです。出力のタイミングを見極めて、それ以外のときはなるべく力を使わないようにする。そういった出力と脱力のメリハリが、スポーツにおける「脱力しなさい」という指導の目的なのかもしれません。

By 古山 大 (ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> 2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝 2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝 2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位 2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位 2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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