皆さんは、トレーニングの原理原則をご存知でしょうか?具体的には、以下のようなものです。
<3原理>
- 過負荷の原理
- 可逆性の原理
- 特異性の原理
<5原則>
- 漸進性の原則
- 全面性の原則
- 意識性の原則
- 個別性の原則
- 反復性の原則
私が大学の授業で習ったのは以上の3+5ですが、これらはどれも「トレーニングで強くなるために必要なこと」を定義したもの。トレーニングを組み立てるとき、大抵はゴール地点を定めてから計画を立てることになります。ゴール地点が決まってないのにマラソンを走り出したところで、全力は出せませんので当然のことでしょう。ゴール地点が決まり、今の力(ゴールまでどれくらいの位置にいるのか)が分かったうえで計画を立て、ようやくトレーニングがスタートします。
そんなトレーニングの原理原則ですが、最近トレーニングに関する情報を得る中で目に留まった言葉がありました。それが、「トレーニングの一貫性」という言葉です。定義はされていませんが、トレーニングを考えるうえでこの「一貫性」という考え方が、すべての原理原則にとって必要になってくると感じます。
目次
目標に向けた道筋から足を踏み外さないようにする
一貫性とは、「始めから終わりまで矛盾がない状態」を指す言葉。つまり、一貫性がない状態をトレーニングに置き換えると、例えばサッカーを上手くなるためのトレーニングで最初はドリブルを練習していたのに、途中で野球のピッチングの練習が入ってしまうようなことです。
サッカー上達に向けて、野球の投球練習をしても意味がないのは分かるでしょう。「何のためのトレーニングなのか」という疑問が湧く時点で、私はそのトレーニングが一貫性の取れていないものと判断できると思います。
サッカーが上手くなりたいのなら、ドリブル、パス、シュート、セットプレーなどの練習を行うはず。その過程で、足りない能力を補うために走る練習も入るでしょう。ウエイトトレーニングも、昨今ではどのスポーツに対しても必要性が叫ばれています。「サッカーの上達」というゴールラインから逆算して立てた道筋の上に、存在するトレーニングを計画に組み込んで実行していくこと。これが「一貫性のあるトレーニング」だと私は考えています。そのとき大事になってくるのが、「計画立案の段階でどれだけ明確に方針を打ち出すことができているか」だと思うのです。
なんとなく「これくらい」「〇〇より強いくらい」という程度では、明確に目標設定ができているとは言えません。「〇〇m走を〇〇秒」「スクワットを〇〇kg」など、数字で打ち出せるところまで落とし込んでいくことで、よりゴール地点が明確になり、計画実行中も一貫性を保ち続けることができるようになるのではなないでしょうか。
「同じことを同じように繰り返す」という意味ではない
よくトレーニングに一貫性を持たせるというと、「同じことを同じように繰り返すこと」だと勘違いされる方がいます。そして、「それ以外の練習はしてはいけない」と解釈される方もいらっしゃるようです。「毎年、この時期はこの練習をこのタイム設定でやって、この合宿に行ったらこの練習で、試合の前は必ずこのメニューをやって…」など。もちろん、「定期的な体力チェック」のために実施することは大切でしょう。しかし、「強化のために同じことを繰り返す」ことが一貫性を保っているかと言われれば、私は「No」だと考えます。
トレーニングの過負荷の原理と漸進性の原則に関わってくる内容ですが、基本的にトレーニングというのは、段階が進むごとに内容は変化していきます。スクワットであれば回数や重さを増やしていきますし、ランニングであれば距離とタイムを更新していくわけです。
トレーニングは、基本的に「高い負荷へ体が順応」することによって、能力を成長させることを目的とします。そのため、スクワット100kgを上げられる人が50kgをいくら上げたところで、なんのトレーニングにもなりません。成長していく能力に応じてトレーニングの設定や内容を変化させていかなければ、「トレーニングによって能力を成長させる」という目的に対して一貫性を保てないことになってしまいます。つまり、同じことを繰り返している時点で、すでにトレーニングの一貫性が保てていないことになるのです。このような事態を引き起こさないためにも、トレーニング立案段階でゴールを明確化させておくことが重要になります。
一貫性を保つ上で大切なのは「想定するゴール」を忘れないこと
前述したように、サッカーが上手くなりたいのに、野球のピッチング練習をするのはおかしいことは分かるでしょう。「サッカーの上達」というゴールが見えていれば、そのような練習を組み立てるはずはないからです。しかし、トレーニングの内容を変えること事態に問題はありません。例えばパスの能力向上のために、今まで2人組で行っていたパス練習を3人に増やしたからと言って、それは「トレーニングの一貫性が保てていない」ということにはならないでしょう。「パス能力の向上」というゴールから逆算すれば、トレーニングは変わったかもしれませんが、目的は何も変わっていません。むしろ、2人組から3人組になったことで、より複雑なパスをすることができるようになり、次の段階(より試合に近い形)へ進むことができる。これが、「過負荷の原理」と「漸進性の原則」です。
トレーニングの原理原則も、一貫性に関して改めて言葉にされると「当たり前のこと」であり、普段から意識せずとも多くの人ができていること。しかし、レベルが上がる、あるいはトレーニングが進むほど、ふとした瞬間に忘れて崩れてしまう部分でもあります。「初心忘るべからず」という言葉の通り、初心の部分を明確に設定して道筋を明らかにすることが、トレーニングの一貫性を保ち続けるためには必要なことなのかもしれません。
1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。
<主な戦績>
2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝
2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝
2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位
2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位
2021年「日本トライアスロン選手権」4位