突然ですが、皆さんはしっかりと睡眠は取れているでしょうか?日本は世界の中でも屈指の不眠大国であり、OECD(経済開発協力機構)の『世界における時間の使い方』に関する調査報告の睡眠時間に関する報告によると、日本はOECDに加盟する33カ国のうち睡眠時間がワースト1位でした。昔から「寝る子は育つ」という言葉もある通り、睡眠は体の成長、および健康維持にとって必要不可欠です。
近年、トレーニングによるパフォーマンスアップと睡眠の関係性についても、盛んに研究が行われています。「アスリートは毎日8時間の睡眠時間を確保した方がいい」「睡眠時間が長いアスリートの方が短いアスリートと比べて故障や怪我のリスクが低い」等の研究なども進んでいるようです。特に最近は、ウェアラブルデバイスによって睡眠中の体調をリアルタイムで記録できるようになりました。このことから、さらに細かい部分まで研究の手が届き始めているように感じます。今回は、そんなアスリートのパフォーマンスと睡眠について考えてみます。
目次
良質な睡眠はトレーニング効果を引き上げる
しっかりとした睡眠が取れていないと、トレーニングで受けたダメージが回復しきらず、体がトレーニングの効果を十分に受けられなくなってしまいます。それは、世の中のトレーニングのほとんどが、刺激に対して体が順応することで能力が上がるようになることを目的として行われているからです。
ここで、スクワットを例に挙げてみましょう。重りを上げるとき、筋肉が大きな力を発揮することで筋繊維が傷つきます。筋繊維が傷ついたということは、その重りは体に対して過剰な負荷(現在の能力では対応できない刺激)になります。そのため、体は次また同じ負荷を受けたときに自分の体が壊れてしまわないよう、その負荷に耐えられるだけの強度を持った状態に体を強化・修復しようとします。
これが“超回復”と呼ばれる現象で、体を鍛えると強くなる原理です。そして、この超回復は、基本的に睡眠時にもっとも行われると言われています。つまり、この超回復を十分に起こして体を強化させるためには、十分な睡眠が必要です。十分な睡眠が取れるということは、受けたトレーニング効果を十分に引き上げることができるようになるということになるでしょう。そのため、良質な睡眠は、トレーニング効果を引き上げるためにとても重要になってきます。
何よりもまずは睡眠時間の確保
冒頭でも述べた通り、日本は世界と比べてみても睡眠時間が取り立てて少ない国です。そのため、睡眠について調べると「短い睡眠時間でよい睡眠を取るためには…」といったものが散見されるでしょう。これも、とても大切なことだと思います。
睡眠は生きていくためには必要不可欠であり、短い時間でも十分な効果を得られるようにすることは「効率」という点で非常に重要です。しかし、これは私の経験上なのですが、どれだけ睡眠の質を高めても、しっかり長い時間を確保した睡眠には及びません。疲労の回復、筋肉の修復、その他身体の異常の修復など。いくらすごい傷薬や性能の高い絆創膏が開発されても、擦り傷が一瞬で治ることはありません。これと同様、いくら睡眠の質を高めていったとしても、短い時間でも身体にとって十分に足りる内容にすることは困難なのです。
睡眠に関する研究や資料をいくつか読んでいくと、成人に必要な睡眠時間はだいたい7時間前後と示されていることが多く見られます。それよりも短い睡眠時間を常時取っている状況だと、病気や怪我のリスクが格段に上がってしまうそうです。毎日7時間くらい睡眠時間をとることができれば、肉体的にも精神的にも異常が現れるリスクが少なくなるということのようです。
では、スポーツ選手はどうでしょうか?毎日トレーニングで肉体的に追い込んでいるスポーツ選手だと、8時間前後の睡眠が必要であると示すデータが多く見られます。私自身もいろんな選手を観察してきましたが、パフォーマンスの高い選手ほど「寝る力」が高いように感じました。
皆さんも試してみると分かると思いますが、10時間寝続けるというのは実はなかなか難しいもの。「寝すぎると疲れる」なんてことも言われますが、まさに睡眠を長く取れることも能力の一つだと思います。かつて、ある飲料のCMで「睡眠だって運動だ」というキャッチフレーズが使われたことがありました。まさにその通りで、長い睡眠時間を確保できるようになるためには、ある程度の慣れかそういう才能が必要です。話が反れましたが、健康面から見てもパフォーマンス向上面から見ても、まずは睡眠時間を十分に確保できていないと、いくら効率を上げたところで効果は薄いでしょう。
睡眠を制するものがトレーニングを制する
ここまでご説明してきた通り、トレーニングとは身体のリカバリーがあって、初めて“強化”という結果がもたらされるものです。身体が十分に回復できないと、必然的にトレーニング効果も得られるものが少なくなってきます。例えば、寝る間も惜しんでトレーニングを行い、200の負荷を身体にかけたとしましょう。睡眠によって80までしか回復できなければ、残り120はダメージや疲労として身体に残り、そのまま怪我のリスクになります。逆に、多少トレーニングの時間を削ってでも、80のトレーニングをして100の睡眠が取れれば、はみ出た20の部分はパフォーマンスアップとして身体に還元されます。
日本人は、どうしても睡眠というものを軽視しがちです。しかし、しっかり睡眠時間を確保できれば、結果的に効率よくトレーニングを進めることに繋がるのだと思います。
1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。
<主な戦績>
2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝
2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝
2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位
2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位
2021年「日本トライアスロン選手権」4位