米国では最近、「Rucking」と呼ばれるトレーニング方法が新たに注目を集めている。背中にリュックサックなどを背負って歩くことで、ずっと以前から軍隊などでは広く行われていた伝統的な訓練だ。現在流行しているのは、それをもっとカジュアルにして、一般人が取り組みやすくしたものである。
Ruckingには筋力、持久力、心肺能力を同時に鍛える効果があり、それでいて特別なスキルは必要ない。同じペースで同じ距離を歩くのであれば、移動させる重量が大きくなる分、消費カロリーも増えるはずだ。他にも、費用が安い、場所を選ばない、故障の危険性が低いといった、さまざまなメリットがある。
目次
Ruckingとは何か
Ruckingという呼称は、「Rucksack」という言葉に由来する造語である。英語では「ラックサック」と発音するが、実は語源はドイツ語で、そちらの発音は日本語の「リュックサック」に近い。
Ruckingに唯一必要となる装備は、背中に背負う形状である程度の容量を持つバッグである。ただし、それはバックパック(英語)、リュックサック(ドイツ語)、ナップサック(ドイツ語)、ランドセル(オランダ語)など何なんでも構わない。あとは歩く意志さえあれば、Ruckingを行うことができる。この古くて新しいトレーニング方法「Rucking」の効果について調べた研究論文が、最近いくつか発表されている。
Ruckingの効果
2019年にマッコーリー大学(オーストラリア)の研究者らが発表した論文(*1)によると、10週間のRuckingは筋力と酸素摂取量を高め、また疲労感のレベルを下げる効果が認められた。
*1. Load-Carriage Conditioning Elicits Task-Specific Physical and Psychophysical Improvements in Males.
この研究の被験者は15人の健康な男性(平均年齢22.6歳)であり、10週間のプログラムにはオーストラリア陸軍でもっとも低い設定が用いられ、背負う重量は23kg、5kmの距離を約1時間で歩くというものだった。
この研究者グループは2021年に別の研究(*2)を行い、上と同じプログラムの効果を男女で比較した。しかし、男女とも筋力が向上し、かつ疲労感のレベルが下がった。心肺能力への効果は男性の方が女性より大きかったが、性別によって効果の差が生じた理由は不明である。
Ruckingについて、高齢者の筋力向上に効果があるとした研究(*3)もある。65歳から74歳までの女性11人が6週間のプログラムを行うと、下半身の筋力及び階段を登るスピードが約10%向上した。
論文著者らは結論で、Ruckingが加齢による筋力低下(サルコペニア)の予防に効果があると述べている。
Ruckingの取り組み方
背負う重量、歩く距離、そしてペースの3つがRuckingを構成する要素だ。これらの組み合わせをレベルと目的に応じて自由に設定できることも、Ruckingが持つ大きなメリットのひとつである。ちなみに、米国陸軍の鍛錬マニュアル(*4)では約16kgの重量を背負い、約20kmの距離を3時間以内で踏破することが兵士に求められている。
もちろん、一般人がそれほど厳しい設定をする必要はない。ランニングや筋トレなど他のトレーニング方法と同様、簡単なところから始めて少しずつレベルを上げていけば良い。
2008年に設立されたGoRuck 社は、Rucking用品(バッグ、シューズ、アパレルなど)の製造・販売を専門とする。同社のウェブサイトでは、初心者はまず10~20パウンド(約4.5kg~ 9kg)の重量から始め、1マイル15分ペース(1㎞約9分)を目安にすることを勧めている。これは、やや早歩きと言ってよいペースだ。そのペースで歩けない場合は、重量を減らすとよいとされている。
参考:GoRuckウェブサイト
通勤や通学などの時間に、Ruckingを行ってみてはどうだろうか。既にバックパックを持っていれば、例えば1駅分だけ歩いてみるとか、あるいはエスカレーターやエレベーターの代わりに階段を登るようなところからでも始められるはずだ。
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。