デスクワークが仕事の中心で椅子に座っている時間が長い職業に就いている人はそうでない人と比較してすべての原因による死亡率が16%高くなる。心血管疾患に限るとその差は 34% になる。
ある種の人々に不安を感じさせるかもしれない結果を明らかにした研究(*1)が、アメリカ医師会が発行する月刊ジャーナル『JAMA Network Open』に発表された。
台北医学大学の研究者らが主導したこの研究は48万人以上を対象にした大規模な調査で、かつ平均して13年近くという長い観察期間をかけたことに大きな意味がある。性別、年齢、教育、喫煙歴、飲酒歴、そしてBMIといった属性ごとに死亡率を比較した平均値が冒頭に記した数字だ。
「現在のライフスタイルの一部として、長時間座って仕事をすることは正常とみなされています。そのことによる健康への悪影響は実証されているにもかかわらず、危険性については十分な注意が払われてきませんでした」と研究者らは論文中で述べている。
言われるまでもなく、長時間座りっぱなしでいると健康に良くない影響があることは、誰にでも容易に想像できた。それでもこうして具体的な数字をつきつけられると、今こうしてPCの前に座って文章を書いている筆者にとっても他人事では済ませられなくなってくる。
1日当たり15~30分間の身体的活動量を増やすだけでリスクは軽減される
しかし、この研究者らは警告を発するだけではなく、救いとなる情報も私たちに提供してくれている。仕事で座る時間が長い人はそうでない人より、1日当たり15〜30分間ほど余計に長く身体的活動をすることで、健康上のリスクを同じレベルくらいにまで軽減できるというのだ。
その程度であれば、実行することへのハードルはさほど高くはない。これまでにも健康に良いとされてきた身体的活動量と大差もない。例えば、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が発表したガイドライン(*2)は1週間に150分以上の身体的活動を行うことが望ましいとしている。
*2. How much physical activity do adults need?
1週間に150分とは、週5回に分けると1回分の長さは30分であるし、週7日に均せば約22分
足らずだ。台北大学の研究者らが提唱する1日当たり15〜30分間の範囲にちょうど収まる。
週に5~7回もジムに行くのは大変だという人も心配することはない。身体的活動とは必ずしもきちんとした運動をすることを意味しないからだ。
階段を上る、鞄や買い物袋を抱えて歩く、床を掃除する、どんなことでもいい。ほんの少しだけ心拍数が上がる程度の日常的動作を1日のうちに何回も繰り返せば、それだけで十分な活動量になり得る。塵も積もれば山になるのだ。
仮に「駅徒歩15分」の場所に住んでいれば、通勤の行き帰りを歩くだけで1日30分になる。駅でエスカレーターを使わずに階段を歩けば、それも立派な身体的活動である。
このように考えてみると、都会より地方の車社会に住む人の方が、意識して日常的に身体を動かすように心掛けるべきなのかもしれない。都会でも、リモートワークで通勤しない人や「駅直結タワーマンション」などに住んでいる人は要注意だ。
私たち現代人は文明の発達によって便利で快適な生活を手に入れた。その代わりに、運動不足によって引き起こされる不健康という、一昔前なら心配しなくてもよかったはずの問題に直面している。
昨年が没後50周年だった故ブルース・リーは次のように述べている。
「なるべく歩くようにしなさい。たとえば、目的地から数ブロック離れた場所に駐車するように。エレベーターを使わずに、階段を上りなさい」
半世紀以上も前に発せられた言葉であることを考えると、実に慧眼だったというべきであろう。もっとも、リー自身は32歳の若さで亡くなっているのだが、それはまた別の話である。
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。