2024年3月9日から10日までの2日間で、「第1回 宮古島ウルトラトラックレース」が開催されました。この大会は宮古島市陸上競技場(沖縄県宮古島市)の400mトラックをコースとし、24時間で何kmを走り切れるかを競うものです。なお、24時間走のほかに12時間走と6時間走も行われました。今回、私は24時間走に出場してきましたので、その様子を24時間走の魅力と共にご紹介します。

 

目次

大会の特長

24時間走という種目は、あまり馴染みのない方が多いかもしれません。いわゆるウルトラマラソンに分類されますが、例えば100kmマラソンのように走る距離が決まっているのではなく、24時間でそれぞれ走破できた距離を競います。ゴール後は周回数に加え、スタート地点からの距離も測定して記録が算出されていました。たった1歩が記録更新に繋がる、まさに自分自身との戦いです。中でも大会にはいくつか特長がありますので、簡単にご紹介しておきます。

代表選考レースへの優先権

男子は230km以上、女子は200kmの距離を走破すると、『2025年世界選手権』の代表選考レースに優先エントリーできます。選考レースは検討中とのことですが、日本代表を目指すランナーにとっては一つクリアすべき目安となるでしょう。そのため、本大会の出場者には元世界ランキングで上位という実績を持つようなランナーも参加されていました。その他にも、この条件を目標に見据えた方は多かったようです。

400mトラックを周回

24時間走は国内でもいくつか開催されていますが、その多くは周回1.5km前後のコースを用いることが多いようです。しかし、本大会は陸上競技場の400mトラックが会場となりました。400mという短い距離を、24時間ひたすら周回するわけです。走力はもちろん、精神力も試されるタフなレースと言えるでしょう。
なお、レース中は4時間毎(最後は2時間毎)に、トラックの200m地点を折り返して走る向きが反対周りになります。そのたび他選手とすれ違うので、声を掛け合う姿も少なくありませんでした。

ハンドラーの存在

24時間走では事前申請により、必要に応じて1名ハンドラーをつけることができます。ハンドラーは例えば補給品を用意するなど、選手をサポートする役割です。私はハンドラーをつけず一人で走りましたが、特に上位を目指す選手はハンドラーをつけて大会に臨んでいました。補給中も時間は経過しますので、より走ることに集中し、時間を使うという意味でハンドラーは重要な存在です。

身体も心も試される400m周回コース

タータンの敷かれた陸上競技場のトラックは、アップダウンがないので走りやすいコースです。しかし、ずっと同じ(4時間毎に反対)方向に回り続けるため、コーナーで内側になる脚に負担が蓄積するのを感じました。ロードレースに慣れている場合、走り方には工夫が必要だったかもしれません。
400mという距離では周囲の景色が変わらず、集中力を切らすと飽きて気持ちが崩れてしまいそうです。24時間走ですから、もちろん夜間も走り続けます。競技場はライトアップされるものの薄暗く、黙々と走り続けるうちに精神面に負担が掛かってきました。トラックの反対側を見ても他選手が見えにくく孤独感が増します。なお、なんとなく人数が減ったように感じていたのですが、明るいうちにリタイアしていた選手もいたようです。

もちろん、後半になると脚もかなり疲労してきます。本来であれば走り続けられるのが理想ですが、走力・経験とも不足していることもあり、休憩の意味で歩きを交えながら走りました。足裏、脹脛、太もも…。少しずつ悲鳴を上げ始める身体を、ときにマッサージやストレッチでほぐしながら、ひたすら歩を進めます。
他ランナーも各自の計画で休憩や歩きを取り入れますが、やはり時間が経つにつれ頻度が上がっていたようです。しかし、休み過ぎると再び走ろうという気持ちが薄れそうなので、その辺のコントロールも大切で難しかったように感じます。

なお、走行距離はゼッケンにつけられたチップで計測されます。スタート地点が計測ポイントになっていて、通過すると少し先に設けられた画面で距離や周回数を確認できました。どんなに辛くても、ちゃんと1周カウントされる。それを見るだけで、だいぶモチベーションを維持できた気がします。

選手を癒してくれる補給・休憩

24時間を走り切るためには補給も大切です。本大会ではトラック・フィールド内において水以外の持ち込みが禁止。基本的には選手用テントに置いた個人の荷物、もしくは運営側で用意されているエイドでのみ補給ができます。
私はできるだけコースに出ている時間を長くしようと思い、あらかじめエナジージェルなどの補給食や水分をクーラーボックスに入れて選手テントへ置いておきました。そのため、あまりエイドでは補給していませんが、エイドの存在は選手にとってまさに“癒し”となります。

エイドでは飲み物はもちろん、ごはんや麺類など温かい食べ物も提供してくれました。飲食しながらスタッフの方々や他選手と会話することで、「また頑張ろう」という気持ちが湧いてくるようです。400m周回という短い距離もあり、中にはエイドに立ち寄って食べ物などの希望を伝え、用意している間に1周走って来るという方もいました。選手はもちろん、スタッフの方々も24時間にわたり選手をサポートしてくれています。

最後は元気!にラストスパート

24時間も走り続ければ、当然ながら満身創痍の状態になります。しかし不思議だったのは、ラスト4時間で選手たちが見せた快走です。「残りわずか」という気持ちが背中を押すのか、まるでスタートしたばかりかのようなペースを取り戻す選手。あるいは、すでに走れず歩くのも辛そうだったのに、いつの間にか走れるようになっている選手など。そういう私自身もその空気を感じ取り、ラスト1kmは恐らく本大会でもっとも速いペースで走りました。
走っているのは自分自身。しかし、決して自分一人が戦っているわけではない。24時間走には、そういう一体感があるのかもしれません。誰かの力走、そして前に進もうという気迫が周囲にも伝わっていく。これは、まさに過酷な24時間走ならではと言える魅力ではないでしょうか。

レース終了のアナウンスと共に脚を止め、中には疲れ果ててその場に座り込む選手も。お互いに称え合い、握手を交わす姿もありました。目標距離や順位など目指すものは人それぞれ違いますが、「24時間を走り切った」のは誰もが一緒。「やっと終わった」という安堵の気持ちも少なからずあり、ラストスパートで忘れ去っていた疲労や痛みが一気に襲ってきました。
私自身の結果は182.4734km。400mトラックを、なんと456周も走りました。4位と思いのほか高順位でしたが、1位は595周を走破して238.036kmだったようです。その走っている姿を見ていても、ランナーとしての“強さ”が試されるレースなのだと感じます。
走り終えた直後は「もう24時間走は走らない」と思ったものの、今はすでに「200kmを目指してみたい」という気持ちが芽生えているのが不思議です。それだけ、24時間走には秘められた魅力があるのかもしれません。本大会は来年も開催を予定しているようですので、ご興味のある方はぜひエントリーを検討してみてはいかがでしょうか。強い自分を手に入れる、そんなキッカケになるかもしれません。

・宮古島ウルトラトラックレース
https://www.sportsentry.ne.jp/event/t/93504

By 三河 賢文 (みかわ まさふみ)

“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かした技術指導も担う。ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。

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