マサチューセッツ工科大学 (MIT) の科学者らがランニング・シューズのデザインに新たな可能性を示唆する画期的な理論を発表した。

彼らが開発した新たな理論上のモデルとは、ある特定のランナーのパフォーマンスに様々なシューズの特性がどのように影響するかを予測し、最適のデザインを導き出すものだ。

ランナーの個性と目標とするレースに合わせた特製シューズはこれまでにも存在したが、それはオリンピック選手のようなハイレベルな競技者だけのものだった。この斬新なアプローチはマラソンのエリートランナーからジョグの愛好家まで、ありとあらゆるレベルのランナーに対して有効だということに大きな意味がある。

その論文(*1)はバイオメカニクス(生体力学)・エンジニアリングの学術ジャーナル『Journal of Biomechanical Engineering』に掲載された。

*1. Modeling Running via Optimal Control for Shoe Design.
https://asmedigitalcollection.asme.org/biomechanical/article-abstract/146/4/041004/1194089/Modeling-Running-via-Optimal-Control-for-Shoe

3Dプリンターによるシューズのカスタム・デザインを可能にする理論

自分に合ったシューズを探すために、ランニング専門店でいくつもの商品に足を入れてみた、あるいはトレッドミルで試走をしてみた経験を持つランナーは多いだろう。専門家にアドバイスを受けることもあったかもしれない。MITが開発したモデルによって、そうしたプロセスが不要になる可能性がある。

このモデルはランナーを重力の中心に回転する股関節と伸縮性のある脚が接続された物体として捉える。さらに、ランナーの身長や体重その他の身体的データ、ランニングフォーム、ミッドソールの硬さや弾力性などのシューズ特性を組み合わせ、そのランナーの走る動作がどのように変化するかをシムレーションするものである。そして、そのランナーの個性と目的に応じた最適なシューズの弾力性と衝撃吸収性を予測する。

その根底にある理論はさほど新しいものではない。元ハーバード大学教授で生体力学の先駆者でもあった故トーマス・マクマホン博士(1999年死去)の研究に触発されたものだ。

共同研究者のひとり、サラ・フェイ氏はMIT大のプレスリリースで次のように述べている。

「すでに3Dプリンターによるシューズのデザインが現実のものになりつつあります。つまり、これまでよりはるかに多くの特性を組み合わせたシューズを作成することが可能なのです。私たちのモデルは斬新かつ高性能なシューズのデザインに役立てるはずです」

数多くのメーカーが様々なタイプのランニング・シューズ開発にしのぎを削ってはいるが、どこも似たり寄ったりのような印象は拭い切れない。大量販売を前提とした従来の方法には限界
があるからだ。研究者らはこの理論が3Dプリンターの技術と交わることでシューズのデザインに革命的な変化を起こす可能性に期待している。

従来のシューズ探しとは、メーカーが幅広い商品ラインアップを市場に提供し、ランナーはその膨大な選択肢から自分に合ったものを探すというものだった。MITの新モデルはこの流れを逆にして、ひとりひとりのランナーが自分に合ったシューズをメーカーに注文することを可能にするかもしれないのだ。

私たちは下のような未来図を描くことができる。それが実現する日はさほど遠くはないかもしれない。

あるランナーがメーカーの注文ウェブサイトで自身の身体的データとランニングのフォームが分かる動画をアップロードし、3Dプリンターによってカスタマイズされた自分だけのシューズを受け取る。10キロレース用、あるいはフルマラソン用、といった具合に目的別のシューズを作ることもできるようになる。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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