スポーツ選手が脳にダメージを負う危険性について以前の記事で述べた。
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脳しんとうは症状や深刻度が見た目には分かりづらく、かつその影響が長期間に渡ることがある。現役時代に負った故障の影響で、引退後も脳疾患に苦しむ元選手も多い。
そのため、スポーツ及び医療現場では選手の脳を保護するための十分な予防と対策が求められるわけだが、スポーツ道具の側からこの難問に対応しようとするアプローチもある。
コロラド大学ボルダー校の研究者らが頭部への衝撃を劇的に減らすヘルメット内部パッドを可能にするデザインを発表した(*1)こともそのひとつだ。
*1. Tunable Metamaterials for Impact Mitigation.
https://doi.org/10.1002/admt.202301668
画期的なヘルメットはスポーツ選手を脳しんとうから守ることができるか
研究者らがデザインした内部パッドは従来の技術と比較して、同じ素材を利用しても衝撃の吸収を理論上25%まで向上させるということだ。
従来のパッドは柔らかい素材に小さな穴や溝を持つ発泡材料で作られてきた。研究者らはその内部構造に目を付けた。パッド素材のデザインをアコーディオンのような捩じれを含む帯状にすることで、さまざまな種類の衝撃から内部を保護する効果が高まるということだ。
このデザインを文章で表現することは非常に困難である。コロラド大学ボルダー校の公式Youtubeが18秒間の短い動画(https://youtu.be/C0c9fvSemaU?si=SWVWp8cwbSnwg8wR )を公開しているので、できればそちらを見てほしい。
アメリカで最人気のスポーツと言えばアメフトだが、近年になって脳しんとうの危険性が広く知られるにつれて、とくに若年層の競技人数には陰りが見え始めている。代わりにルール上で身体的接触を減らしたフラッグ・フットボールの人気が高まり、2028年のロサンゼルス夏季オリンピックでは追加種目のひとつとして承認された。
ヘルメットの安全性が高まることで、こうしたアメフト離れの傾向にあるいは歯止めがかかるかもしれない。
さらには、研究者らはこのデザインがアメフトだけではなく、サイクリングのヘルメットなど様々な種類のスポーツで頭部を保護することに役立つと、大学のプレスリリースで述べている。それだけではなく、肘パット、膝パット、はては包装材料から高速道路の事故防止バリアーなど、ありとあらゆる用途に転用可能だということだ。
なぜなら、彼らが作成したデザインは3D プリンター技術を活用することにより、様々な素材で実現可能であるからだ。それはつまり、ポリウレタンであれ、アルミニウムなどの金属であれ、多種多様の素材と形状であらゆる種類の衝撃を劇的に緩和させるパッドを作成できることを意味する。
典型的な文系人間である筆者には研究者らの理論を正確に理解できているかどうかは正直なところあまり自信がない。しかし、プレスリリースで述べられている、この理論が持つ多用途性には大きな期待を感じる。
筆者は以前に子どもから大人を対象に空手を指導していたことがあるし、現在は高校野球部のコーチを務めている。空手も野球も、アメフトほどではなくても、頭部にダメージを負う危険性は多かれ少なかれ存在する。
上段回し蹴りであれ、デッドボールであれ、生徒たちが頭部に衝撃を受けた場面では何度か肝を冷やしてきた。幸い、大きな事故に繋がったことはこれまでにないが、潜在的な危険性はけっしてゼロにはならないことは理解している。
スポーツに怪我はつきものだが、頭部のそれを避けることには最大限の努力がなされるべきだと考える。より安全なヘルメットが普及することで、より多くの人が安心してスポーツを楽しめるようになることを願ってやまない。
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。