一般的に、男性は女性より体力面で上回ることが多い。無論、そうではないケースも多々ある。
しかし、エクササイズが生む健康効果に関しては、はっきりと女性の方が男性より有利である。そんな結論を述べた研究(*1)が米国の心臓医学ジャーナル『Journal of the American College of Cardiology』の2024年2月版に発表された。
*1. Sex Differences in Association of Physical Activity With All-Cause and Cardiovascular Mortality.
https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2023.12.019
目次
40万人以上の成人男女を22年間にかけて追跡した大規模調査
この研究は1997年から2019年までの期間に全米の健康調査アンケートに回答した約41万2000人の成人データを解析したものだ。そのうち、55%が女性だった。
研究者らは、人々の身体的活動歴をその頻度、長さ、強度、そして種類といった様々な要素から評価し、それらの健康効果を性別に比較した。
日常的に運動をするグループは運動不足のグループに比べると死亡率はかなり低くなる。それ自体はとくに驚くべき結果ではないが、興味深いことに、活動的な女性の死亡率は非活動的な同性より24%減るのに対し、男性の場合は15%しか減らないことが分かった。
さらに、運動の種類によっては健康効果の性差はさらに顕著になることも分かった。以下はその例である。
中~高強度の有酸素運動を、男性が週に300分行った効果は、女性が週に140分行った効果とほぼ等しい。
筋力を向上させる運動を、男性が週に3回行った効果は、女性が週に1回行った効果とほぼ等しい。
つまり、男女が同じだけの効果を得るためには、男性は女性の2倍から3倍は運動をしなくてはならないということだ。もちろん、女性が上の例より多く運動すれば、より多くの効果を得られることは言うまでもない。
論文著者のひとり、米国ロサンゼルスにあるシダーズ・サイナイ・医学センターのマーサ・グラティ医学博士は同院のプレスリリースで次のように述べている。
「女性は伝統的かつ統計的に男性よりエクササイズの質と量において劣っていました。この研究結果によって、女性は身体的活動によって男性より多くの効果を得られることが分かりました。そのことは女性のエクササイズに対するモチベーションを上げてくれることを期待できます」
筆者の感想
男性である筆者にとっては、上の研究結果は両手を上げて歓迎できるものではない。こと運動と健康に関しては、男性は同じだけの努力を払っても、女性より少ないものしか受け取れないことを意味するからだ。
しかし、世界の成り立ちが不公平であるならば、それを受け入れるしかない。「男はつらいよ」と嘆くより、1mでも長く走り、1回でも多く腕立て伏せをするまでである。
むしろ、この研究は運動と性差に関して我々が漠然と抱いていた先入観を正してくれたことに意義があると考える。男性と女性との間で生理学的反応が異なることが証明されたことで、より個人に適したエクササイズを選ぶことが可能になるだろう。同様の研究が年齢や人種など別の属性を対象に行われてもよいのではないか。
世界保健機関(WHO)は2020年に改訂されたガイドライン(*2)において、すべての成人は「健康効果を得るためには、1週間を通して、中強度の有酸素性の身体活動を少なくとも150~300分、高強度の有酸素性の身体活動を少なくとも75~150分、または中強度と高強度の身体活動の組み合わせによる同等の量を行うべきである」としている。
*2. WHO身体活動・座位行動 ガイドライン (日本語版)
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/337001/9789240014886-jpn.pdf?sequence=151&isAllowed=y
しかし、健康であるために必要な運動の量と質は、どうやら万人に共通するものではないらしい。ある人がなかなか手に入れられないものを容易に手にする人もいる。逆もまた真なりである。
アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。