編集部より:こちらの記事は、noteから転載した記事「パートナーに運動習慣をつけさせたい勢に伝える、私が夫の筋肉量を2kg増やした5ステップ」になります。

 

 

「このままだとこの人、60歳になる頃には普通に歩けなくなっているかもしれん……」

4年前に結婚した直後、風呂上がりの夫の体型を見ながら、私はしばしばそう思った。

夫は結婚当時36歳。体全体がものすごく固く、巻き肩で、腹筋や内転筋が弱いという、典型的なデスクワーカーだった。歩く時はつま先が内に入るし、太るとすぐに腹に肉がつく。スーツなど着ている姿を見るだけではわかりづらいが、相当な反り腰でもある。

もちろん、現代においてはほとんどの人間が大なり小なり巻き肩・反り腰だし、よほど運動していない限り、30代になれば体も固くなる。しかし、夫の場合はそれがかなり深刻に見えた。聞けばぎっくり腰も何度かやっているらしい。

当然ながら、夫には運動習慣がなかった。彼は暇さえあれば小難しい歴史本か論文を読んでいる、学問方面のオタクである。

観察している限り、仲の良い友達勢も99%が同類だ。SNSでも、政治や歴史のニュースを皆で囲んではキャッキャしてばかりいる。こんな状態でアラフォーに突入して、筋肉や骨格の状況が改善されるはずはない。

同じく、肩こりと仲良しのデスクワーカーボディではあるものの、ピラティスが大好きな体オタクである私の両眼は、毎夜夫を見つめながら険しく光った。

このままではまずい。

このままでは、夫の体は運動機能を加速度的に失い、遠からず大変なことになるだろう。体が固くなるのにまかせて動かなくなれば、内臓機能だって弱っていく。

夫の場合、怪我や病気で動けないのではなく、単に動かないで過ごしているだけなのだ。これは由々しきことである。

もちろん、見た目を素敵に保ってほしいという欲求もないわけではない。
しかしそんなこと以上に、夫自身の健康寿命と、我が家の戦力が脅かされることの方に危機感を覚えた。

私は80歳まで現役で働くつもりだから、あまり早く介護が必要な状態になられては困る。
今後育児が始まったときに、赤ん坊を抱っこできないような、ひ弱な状態でいられてもめちゃくちゃ困る。

夫には育児をガンガン分担してもらいたいし、ジジイになるまで元気でいてもらって、いつまでも愉快なデートができる状態でいてもらいたい。

というわけで、2020年の年末ごろには、私は計画を立てていた。

夫が40代になる前に、宅トレと、ジム通いの習慣を身につけさせよう。

結論から言うと、その目標は丸3年で達成できた。

夫は現在、週に一回のペースでパーソナルトレーニングジムに通っている。毎日ではないが、体がこったら自主的にストレッチもする。かつて私だけが使っていたフォームローラーやストレッチボールは、今では共有アイテムだ。

この間は、ジムで筋肉量を計測した結果、始めた頃より筋肉量が2kg増えていたらしい。

そのことを告げられたときは、思わずマンモスを狩った原始人のように喜んだ私である。

もちろん、いきなり美しい細マッチョになったわけではない。今でも人より体は固いし、筋力体力がある方とは言えない。

でも、実際腰回りの形状は少し変わってきたし、前より姿勢を保てるようになってきた。何より、自主的に運動する習慣ができたこと、これは大きい。ミッション達成と言っていいだろう。夫が40歳になった頃のことであった。

目次

◾️いかにして私は、夫に運動習慣を植え付けたか

「夫に運動習慣をつけさせたい」と思っているすべての妻に告ぐ。

いや、妻→夫じゃなくても、どんな組み合わせでも別に同じである。

普通の人間は、他人(身内含む)にあれこれ言われたくらいで運動を始めたりしない。

まずはこのことをよく頭に叩き込んでおく必要がある。

  1. それをやるのがとてつもなく面白い/とてつもなくつまらない
  2. それをやらないと/やめないと死ぬ(と心が錯覚するくらいの危機が訪れる)
  3. それをする/しないことを常識とするコミュニティにフルコミットする

こういう条件を満たさない限り、運動に限らず、人はそうそう簡単に習慣を増やしたり減らしたりしないものである。

その上でもなお、どうにかして不健康なパートナーに運動習慣を身につけさせたいと思うなら、徹底的に長期戦で取り組む必要がある。

一足飛びでジムに通わせようなどと思ってはいけないし、毎日家で腹筋をさせようと思ってもいけない。

イライラしながら「ねえ、健康に悪いからちょっとくらい運動しなよ!」と主張を押し付けたりしたら、「ええ? 俺だって忙しいんだよ」と返されて当然である。

相手に運動習慣がないのは事実かもしれないが、その人の生活はすでに別の習慣で運用されているのだ。他人の一存で、そこにいきなり新顔を横入りさせることはできない。

だからここで重要なのは、こちらの命令に従わせることではない。

運動という行為を、相手の「課題解決の手段」に組み込んでもらうことである。

そもそも、運動が相当好きな人間でない限り、運動そのものを目的にすることはない。

大抵の現代人は、健康維持やリラックスのための手段として運動を行う。

実際、正しい知識に基づく運動は、生活上の身体的ストレスをやわらげ、怪我や病気の予防にも役立ち、QOLを著しく上げる。

この利点を心底納得すれば、人が生活の中に運動を取り入れる可能性は飛躍的に上がるだろう。

便利なものは、人は頼まれなくても使うからである。

ただしその納得も、一朝一夕では生まれない。

それ故に、私が踏んだのは、以下の5ステップだった。

1.自分自身が運動習慣を実践し、運動するのが当たり前のライフスタイルを見せ続ける

毎日のように夫の前でストレッチや筋トレを行い、フォームローラーやストレッチボールなどの器具を使いまくった。2021年にはフィットボクシングも買い、しょっちゅうこれ見よがしにプレイした。

その道具は何に使うのかと聞かれれば解説し、どういう運動が、筋肉のどの部分に効果があるか、といった話を積極的に共有した。

ここでやっているのは、「生活のスキマ時間に運動している人間」の生態系や、体の不調を運動で解決しているプロセスを見せること。それから「体について話し合うのが当たり前の空気感を醸成すること」である。

もちろんこの時点ではまだ、夫は運動しようなどというそぶりはまったく見せていない。

2.一緒にラジオ体操をやる

たとえ運動の習慣がなくても、抵抗感をあまり感じずにできる運動の筆頭。

それが、我らがラジオ体操である。

夫と私はある時から朝活をするようになったのだが(出産以降停止中)、その中でラジオ体操を取り入れていた。5分たらずで終わるのに、真剣にやれば全身をくまなく動かせてとても気持ちがいい。

夫もこれには難色を示さず、むしろ朝のすっきり習慣として素直に受け入れてくれた。朝、リビングのGoogleHomeに向かって「OKグーグル、youtubeでラジオ体操第一を再生」とリクエストするだけですぐに始められたのもよかったと思う。

「運動をすると気持ちがいい」という成功体験のファーストステップとして、ラジオ体操はかなりおすすめだ。さすが国民的体操なだけある。

3.夫の肩こりがひどそうなときに運動を勧め、セカンドステップとしてオガトレを一緒にやる

オガトレさんありがとう。

運動習慣のない、かつ体の固い大人を誘い込むのに、オガトレ以上の解はないと私は思っている。

YouTubeのトレーニング動画の中でも、ハードルの低さ、わかりやすさという点では抜群だ。

効果的だったのは、夫の肩が凝っているときなどにストレッチの効果を吹き込むことだった。結婚当初はマッサージをしてあげるようにしていたのだが、その時に「本当はね、自分でやるストレッチの方が即効性も持続力もあるんですよ……」と少しずつ囁き、頃合いを見て「今日は一緒にやってみよう」と誘うようにしたのである。

最初のうちは、気乗りのしない返事をされることも多かった。しかし懲りずに何度も(※至って明るく)声かけをし、勝手にYouTubeを流して私一人でも始めたりしているうちに、いつの間にか一緒に、やがては一人でトレーニングするようになっていた。

「オガトレをしてから寝る方が、翌日の具合が良い」と実感してからはとてもスムーズだったと思う。

 

4.最初は整体に通わせ、それをドクターストレッチに変えさせる

これは、体をほぐすことよりも、「体のメンテナンスのために、定期的にどこかに移動する」ことを習慣化するためのステップだ。

「自分でほぐすのも限界はあるから、本当にしんどいときは整体も使うといい」と言って整体に通わせ、しばらく様子を見てから、次は通う先をドクターストレッチに変えさせた。揉まれる、押される系の調整から、筋肉を伸ばしてもらう系の調整への変更、という流れである。

変えさせたというのは、もちろん無理やりどうこうしたのではなく、「こっちの方がこういう理由であなたにはよさそうだよ」とプレゼンした結果だ。

どちらも「人にやってもらう」サービスなので、正直この二つにものすごく大きな差はない。ただ、後者の方がやや運動に近く、筋肉についての情報をインプットする余地が増える(トレーナーにもよるが)、という点を重視した。

実際、筋肉の知識などまったくなかった夫が、そのうち「腸腰筋が固いって言われた」「どうしても左側の背中に負荷がかかるらしい」など、具体的な部位の不調や改善について語るようになったのは大きな前進だったと思っている。

ただし、「やってもらう」サービスに安住すると元の木阿弥になってしまう。ここからの一歩が一番重要である。

5.ドクターストレッチをパーソナルジムに変えさせる

というわけで、最後の飛躍。

「やってもらう」ストレッチから、自分で筋肉を追い込むパーソナルジムへの変更である。

運動習慣がまったくないところから、いきなりパーソナルジムに通うのは無理だったと思う。しかし今や夫は、体が固くなったらオガトレをし、私のストレッチボールを使ってこりをほぐし、週に一回ドクターストレッチに通う男である。ここからジムへの道のりは、前よりはずっと近い。

「そろそろジムにしてもいいんじゃない?」という私のそそのかしにより、夫はジムに通い始めた。ブラジリアンスクワットだのプランクだの、最初はなかなかできなかったようだが、数ヶ月通ったあたりからは慣れてきたらしい。

ここがうまく行ったのは、私が妊娠したからというのも大きかったと思う。妊娠してからは「これからは赤ん坊を抱っこしてもらうことになるんだからね。赤ん坊は毎月キロ単位で体重が増えるんだからね」と度々語りかけ、「赤ちゃんにかかりきりになる私のサポートをしてほしい。そのために健康を保ってほしい」とお願いしていたのである。

ただそれでも、そのずっと前から下準備をしてきたことは功を奏したと思っている。前述の通り、軽い運動をすることは増えていたし(毎日ではなくとも)、妊娠する半年以上前から、「そろそろドクターストレッチではなくジムに通ってみては」と軽く打診しては「うーん、まあいつかは」と返されるやり取りを繰り返していたのだ。

千里の道も一歩から。3年かかったが、夫はついに「それなりに運動も取り入れている40歳男性」になったのである。

 

まとめ+夫のコメント

運動習慣のなかった夫を、宅トレや筋トレの習慣に導いた5ステップをまとめると、だいたい以下のようになる。これはあくまで我が家において有効だったやり方だけど、少しでも参考になったら幸いだ。

  1. 自分自身が運動習慣を実践し、運動するのが当たり前のライフスタイルを見せ続ける(生活の中に運動がある状態になじませる)
  2. 一緒にラジオ体操をやる(運動すると気持ちがいい、という感覚を持ってもらう)
  3. 夫の肩こりが酷そうなときに運動を勧め、セカンドステップとしてオガトレを一緒にやる(運動習慣に足を踏み出してもらう)
  4. 最初は整体に通わせ、それをドクターストレッチに変えさせる(体のメンテナンスのために外出する習慣をつけさせる)
  5. ドクターストレッチをパーソナルジムに変えさせる(体をしっかり動かす習慣をつけさせる)

健康のために、家族に運動してほしいと思う人は多いと思う。

でもその場合は、まず自分が運動を楽しんだり、効果を感じたりするのが肝心だ、と私は考える。これは、「自分がやれないくせに人に押し付けるな」という話ではない。運動をしろと迫るよりも、運動で得るポジティブな感覚を相手と共有する方がお互いにとってハッピーだと思うのである。

実際、夫が運動してくれるようになってからは、夫婦間で共有できる話がひとつ増えた。その上健康にもいいのだからいいことづくしだ。

ただし前の方でも書いたが、無理強いはよくない。もちろん、健康上の緊急性が高い場合は専門家の手を借りてでも応急的にやらせた方がいいかもしれないが、そうでない場合はあくまで長期戦。

そして「自分の思い通りにならなくても腹を立てたり嘆いたりしない」気構えを持つべきだ。どうしてもやりたくない、できないことだって人にはある。家族であっても相手は他人で、別の人生を生きていることを忘れてはならない。

ちなみに、夫にこのnoteを書いていることを話したら、こんな風に言っていた。

「実際、あのまま運動しないで40代になっていたら、腰が痛いだの肩が痛いだの言い続けるだけになっていたんでしょうからねえ。ありがたいことです」

計画通り(『デスノート』のライトの顔で)。

これからも私は、一介の体オタクとして自分自身の体でさまざま実験しながら、夫のメンテナンスにも目を光らせていくつもりである。あと4、50年は、元気にお互いライフワークに取り組めるように。

4年目の結婚記念日の今日、改めてそんなことを考えている。

 

By 小池みき

ライターで漫画家。書くこと話すこと踊ることが好き。既刊マンガ『やっぱり、きれいになりたい!』『家族が片づけられない』『同居人の美少女がレズビアンだった件』。📩 mikipond@gmail.com 家事育児と執筆活動の両立を模索する日記マガジン「家政とペンと」更新中です。

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