公認スポーツ栄養士・管理栄養士の馬淵恵さんに、「パフォーマンスを上げるための食」について5回に分けて伺う本企画。前回は食と心身のつながりを知るために、ジュニア期から捉えて欲しい“食は楽しい”についてお伝えした。今回は、「食の土台をつくる身体の働き」についてお届けしよう。
・参考:公認スポーツ栄養士が伝えたい“強さの土台”をつくる食
目次
食べ物を受け止める身体がなければ意味がない
今回は、「身体の働き」にスポットを当てます。なぜ「食べ物」ではなく、「身体の働き」の話なのか。それは、どんなに良い食事をしても、それを“受け止める身体”がなければ意味がないからです。この“受け止める身体”とは、食べた物をしっかりと消化し、吸収できる身体のこと。いくら栄養ある食事でも、消化吸収できなければエネルギーにならないし、筋肉や骨の材料にもなりません。だからこそ「何を食べるのか」の前に、身体の働きについて考えていくことが大切なのです。
最高のパフォーマンスは毎日の生活習慣からつくられる
私がアスリートをサポート・指導するときは、まずその選手の生活習慣を見ます。なぜなら選手のコンディションは、毎日の生活習慣から成り立っていると考えているからです。そして生活習慣は、以下図のような5つの要素で確認していきます。
前回お伝えしたように、食事を見るポイントは「毎回おいしく、楽しく食べられているか」「食事を通じて身体と会話ができているか」の2つです。コンディションが良いときは、食事をしっかり美味しく食べられるでしょう。しかし不安やストレス、疲労が溜まっていれば、食事を満足に食べられなくなってしまいます。すると、エネルギーが不足したり集中力がなくなったり、トレーニングの質が低下したり。あるいは睡眠不足になるなど、パフォーマンスが上がりません。ですから、食事を通じて“今の自分のコンディション”を選手自身が把握し、生活習慣をマネジメントすることが大切。そのため、食について栄養という観点だけではなく、「食べることに対する意識」や「食べ物を受け止める身体の機能」を見ることに重きを置いています。
アスリート必須の毎日の“便チェック”
“食べ物を受け止める身体”の機能の働きは、毎日の“便”からチェックしましょう。次のように聞かれた場合、皆さんの今日の便はどうでしたか?
- いつ出た?
- どんな色?
- どんなかたさ?
- どんな臭い?
排便をチェックする理由は、腸内環境の良し悪しを確認するため。腸内環境は免疫力にもつながります。排便が一定でなく便秘や下痢があれば、腸内環境が乱れている可能性があり、免疫力の低下も考えられるでしょう。また、腸と脳はお互いに影響をし合う関係であり、これを“脳腸相関”と言います。腸内環境を整えることで集中力が高まり、メンタルや自律神経も安定するのです。理想的な排便には以下のような特徴が挙げられますので、ご自身の状態と照らし合わせてみてください。
- 毎朝排便(起床時、朝食後どちらでも良い)
- 一日1〜3回(毎食後に排便するのが望ましい)
- 黄土色〜茶色
- 小ぶりのバナナ2本分
- かたさは、ねり歯磨き粉くらい
- スッと一回で出て残便感がない
排便は身体からの健康のサイン
私が指導する選手・チームには、この排便チェックを徹底。トップチームの長距離実業団を担当管理栄養士と共に栄養サポートしていますが、選手には“便ノート”を記入してもらっています。
以前このチームで、便についてとても印象的だった出来事がありました。チームに所属する選手にとって非常に重要なレースがあったのですが、当日になってみると、その選手がエントリーしていません。食事サポート担当の管理栄養士に連絡すると、インフルエンザで欠場とのこと。重要なレースだっただけに、悔やんでも悔やみきれません。
実は、この選手だけではなく、数名が同じく欠場でした。そこで、すぐに担当から最近の食事内容から便の記録を出してもらったところ、やはり数週間前から便のリズムが乱れていたのです。
なぜ、このことに気づかずに対処できなかったのか。便が乱れた時点で衛生管理を徹底したり、睡眠を多く取ったりするなど免疫力を高めるよう対応すれば、選手のコンディションは違っていたかもしれません。私は改めて、“便から読み取れる身体のサイン”の重要性を噛みしめました。
毎日自分の便と対話することが大切
自分のコンディションを知るために、排便のチェックは基本です。もし便秘や下痢が見られたら、次のようなことを確認してみてください。
- しっか主食のご飯が取れているか(便秘と排便量の確認)
- ビタミン、ミネラルを含む、食物繊維の多い野菜、海藻、きのこが不足していないか(栄養素の不足)
- 睡眠時間は足りているか(睡眠不足)
- 食事がしっかり食べられているか(新陳代謝の問題)
- 心に不安や心配がないか(自律神経の不調)
このように便の不調の原因は、生活習慣から探ることができます。もし不調が見られたら便を確認して改善することこそ、コンディションを整えていくことにつながるのです。
私はこれまで、数々のアスリートをサポートしてきました。その中で、やはりトップで活躍している人ほど、便のリズムが乱れにくい傾向にあります。これは目標やゴールが明確であり、そのために生活リズムを整えていく習慣があるからでしょう。「自分の成績を伸ばしたい」「子どもをアスリートにしたい」と思う方がいたら、まずは毎日の便のチェックを習慣化してみてください。
良い便をつくる方法とは?
では、どうすれば良い便をつくることができるのか。私たちの心と身体は、食べたものだけでできています。便は身体からの“健康のお便り”。そして良い便を出すためには、“しっかり噛む”ことがとても重要です。
私たちは口から食べて肛門で便を出しますが、口から肛門までは一本の管でつながっています。この一本の管には胃や腸など消化・吸収する器官があり、その中で唯一、自分でコントロールできるのが口。しっかり噛むことで唾液が出て、食べたものを消化吸収しやすくなります。
さらにしっかり噛んで唾液が出ることで、消化吸収率や筋肉の再生力が高まるほか、デトックス作用も期待できます。また、よく噛むことがあごの筋トレにもなり脳の血流や脳機能の向上、そして自律神経をコントロールするのにも繋がるでしょう。そして胃腸が働くスイッチにもなるので、結果的に胃腸力や消化吸収力、免疫力を高めることにもつながります。“噛むこと”には、こんなにも多くの効果があるのです。
私が主任講師を務める一般社団法人食アスリート協会では、全国の強豪高校ラグビー部をサポートしています。その多くは便をチェックし、便の状態が緩い際には意識的に噛むようになってきました。
「便の調子が良ければ免疫力アップにつながる」
「しっかり噛むと身体が熱くなって身体のコンディションが良くなる」
このような意識づけや声がけがあればこそ、生活習慣の重要性と心身のコンディションづくりを、選手自身が考えていけるようになるのです。その第一歩として、まずは毎日の「便」のチェックから始めてみましょう。
次回は、パファーマンスを最大限に引き出す食事バランスの整え方についてお伝えします。
[プロフィール]
馬淵 恵(まぶち めぐみ) 共立女子大学食物学科管理栄養士専攻を卒業後、大手食品メーカーで営業を担当。結婚出産を経て2013年「食を育てる」をコンセプトとしたFREC株式会社設立。大手エステや行政、病院、企業での生活習慣病、ダイエットなどで、延べ5万人を超える方々に食のアドバイスを提供。全国で幅広い年代に向け食と健康について発信している。 現在はスポーツ食育を中心にプロ野球選手や実業団の陸上チームや水泳クラブ、高校野球・ラグビー・サッカー、大学ラグビー・アメリカンフットボールなどで、栄養サポートを全国で展開している。企業健康講演・新人社員研修・行政学校での食育講演など年間50本以上の実績。妻として、働く1人の女性として、女性が自分らしい働き方を見つけられる仕組みづくりをミッションに様々な活動を行っている。二児の母。 ・著書「かんたんやさしい食べるを変える 米トレ」(報知新聞社出版)。 |
スポーツメディア「New Road」編集部
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